ロックとギリシャ神話その4 パリスの選択

映画「トロイ」ではパリスを人気絶頂だったオーランド・ブルームが演じました。名誉も勝利にも背かれ、不器用に愛だけを一途に求める姿に涙する女性も多かったのではないでしょうか。しかし、だいぶ原作とはちがっています。メラニオスとの一騎打ちなんて原作にありません。
原作のパリスはそんなかっこよい男ではありませんでした。

神話によるとトロイヤ戦争発生の原因はアキレスの両親の結婚式に投げ込まれた、「一番美いい女神へ」と書かれた金のリンゴの所有を巡って、3人の女神に判断を任せられたパリスの判断にあります。パリスは相当にお気楽な性格なのに、なぜか美味しいところを持っていってしまう役回りです。

トロイヤ王子パリスの物語

パリスはトロイヤの王子として生まれますが、国に禍をもたらすとの信託を受けて捨てられます。王子で有ることを知る由もなく、牛飼いの子として拾われお気楽に育てられます。

このパリスの前に、突然目の前に3人の女神(ヘラ、アレネ、アフロディーテ)が現れその中で一番美いいのは誰かとパリスはたづねられます。これが有名な「パリスの審判」です。永遠の勝利をちらつかせるアテネ、位や地位や名誉をチラつかせるヘラ、絶世の美女をモノにできるとチラつかせるアフロディーテのなかで、パリスが選んだのアフロディーテでした。即断でした。チャラ男のパリスにとっては王の地位や戦争にはまったく興味がなかったのです。

パリスの審判 ルーベンス作

パリスはその後すんなりとまたお王子として城に迎え入れられます。アフロディーテの言葉を鵜呑みにしたパリスは、妻を娶りますがまったく浮気グセは治りません。その上ギリシャへ行き、当時の随一の絶世の美女スパルタ王妃のヘレネと恋仲になり、トロイヤへ連れ帰ってしまいます。これを怒ったのがギリシャの寝取られ男のスパリタ王メラニオスです。そのメラニオスと兄のミケーネ王アガメムノンが起こしたのがトロイヤ戦争なのです。

当のパリスはそのトロイヤ戦争では戦闘は表にでず、ヘレネとラブラブで、戦闘は無責任にすべて兄のヘクトルにまかせぱなしです。しかもヘクトルはアキレスに敗れてついに戦死してしまいます。でも、パリスが放ったへなちょこな矢がアキレスの踵に奇跡的に当たって不死身のアキレスを倒すのです。

 

 

今回は、このパリスをバンド名にしたバンドを紹介します。

ロゴにエッフェル塔やルーブルのピラミッドがあるところからフランスの首都の名から来ているはたしかですが、日本での発音や紹介での発音は一貫してパリスでした。
それが、硬派なブルースバンドだったフリードウッドマックから独立して一度は成功したボブウェルチの最初のバンドです。

パリスの3枚めとして制作のアルバムを単独名義で発表するという選択をすることで、AORの先駆けに大ヒット作になりました。軽いノリの「フレンチキッス」です(よほどのフランス好き?)。その中の「センチメンタルレディ」も大ヒットです。

パリスのボブ・ウェルチの選択は、結局3つのうちから一番おちゃらけた軽い乗りの「フレンチキス」を選ぶことでした。名誉ではなく、戦いの勝利でもなく、結局はナンパな路線というところは、ギリシャ神話の「パリスの選択」に似ています。

続いてがこちら

 

神話のほうのその後のパリスは、ギリシャの英雄の一人ピロクテーテスの放つヘラクレスの矢を受けて瀕死の重傷をおいます。最後は一度は見捨てた妻に手当を請いますが、逆にみすてられて、その傷がもとで一人寂しくこの世を去ります。

ロック界のパリスであるボプウェルチのその後は、77年の大ヒット以降は鳴かず飛ばずになります。というのも抜けたフリードウッドマックがスティービーニックスらの加入のアルバム「噂」が超ロングランの大成功を収めていたからです。その後ボブは酒に溺れ、ついにヘロイン中毒になります。そして2012年、自殺している姿を自宅で発見されました。

どちらも悲しい最後でした。

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