シックスネイション 第三節 レビュー

1,厚みの違い
イタリアーアイルランド 34−20

両チームがピッチに出てくるなり、どうしても感じてしまったのが、明らかな選手の体格の違いである。横幅もさることながら最も違っているのが胸板の厚さであった。みたところざっと約3倍は違って見える。

ゲームが終わってみれば、厚さの違いは見てくれだけでなかった。アタックの厚み、ディフェンスの厚み、リザーブを含めた選手層の厚み、経験値の厚みなど、さまざまな厚さの違いをみせつけらてたゲームであった。

アイルランドはセクストンが欠場、しかしロスバーンがその穴を埋める。長年、アイルランドの課題は選手層の厚さであった。ロスバーンのプレイをセクストンとくらべてしまうのはまだ酷ではある。しかし、少しばかり単調で、アタックの多彩さという面が少しばかり凹んでも、チーム全体の厚みでそこは全く問題にならない。今回のアイルランドはバンディアアキが復帰して、それだけでも選手層の厚みを見せる。バンディアアキはトライも取ったが、トライ寸前でのミスもあった。通常ならプレイがくずれてもおかしくないが、バンディアアキ経験の厚みと懐の深さで、まったく動じはしない。アイルランドは前半の最後はゴール前のPKをもらってもタップからの攻撃の選択を取りつづけた。ラインアウトからのモールや、スクラムこだわらない、プレー選択の厚みを感じた。終わってみれば、この選択がボディプローとなって最後の20分間の差になることを想定してのことであった、ゲームの組み立て、仕掛けの厚みが違う。

その上、この日のローマにはアイルランドのサポーターが非常に多かった。ここはダブリンかと思うほど、イタリアサポーターよりも多く感じられた。分厚いサポーターだ。緑のジャージにマフラー姿で、分厚いアカベラで応援歌の「フィールズオブアセンライ」を何度も大合唱する。
カソリック多いアイルランド人にとってはバチカン詣でも兼ねての大結集だったのではなかっただろうか。歴史の厚みも感じる

対するイタリアはまだなんとも薄い。前半に4トライを取られてしまうと、通常のチームならゲームが崩れてしまってもおかしくない。しかし、紙一重で得点を重ねてゲームが壊れる前、すれすれで留まっている。アタックもすれ違いざまの紙一重のパスが通る。しかしそんなパスだからミスもおこる。アイルランドの攻撃もアイルランドのミスにより紙一重のところでトライをのがれる。前半最後は紙一重のインターセプトでトライをとって24−17という形で終える。後半も先にPGを決めて24−20となると薄いながらも希望も持ってしまう。しかし前半から、激しいコンタクトがつづいた結果、最後に決まってピッチに倒れているのはイタリアの選手であった。最後にはその薄い壁は完全に破られでっかい穴を開けてしまって無残な敗戦となった。

しかし、このゲームで得るものが多かったのはイタリアのほうかもしれない。このほうなことから、少しずつでもラグビー質やラグビー文化の厚みを増していきたい。

 

2,真摯さの装い?
ウェールズーイングランド 10−20

これまでのウェールズとイングランドの戦いぶりはひどいものだった。
ウェールズは自制できずに反則を繰り返して、自滅。覇気がなく、全く浮上できない。イングランドのラグビーは、まったく品性が感じられずに、傲慢で、相手を威嚇し、好き放題で力任せの荒いラグビーに終始している。

しかし、この日はウェールズもイングランドもガラリとラグビーの品性が変わった。反則が非常にすくなくなり、お行儀が良くなった。見た目に真摯さが戻った(ようにみえた。)

なぜなら、この日は「プリンスオブウェールズ」と「プリンセスオブウェールズ」の両陛下がウェールズの中心であるカーディフにまで揃って観戦にお越しになりアソバサレタからである。

日本では「天覧試合」にあたる。英国連邦の王室の存在は日本の皇室の存在とは違った重みがある。歴史があると同時に親しみも多い。ほとんどすべての国民が好意的で関心がある。英国人の大好きなゴシップ記事、スキャンダルにも事欠かない。日常会話で話題になることが多い。
しかも英国連邦にとっては昨年9月にエリザベス女王が崩御され、数十年ぶりに代わったばかりのプリンスとプリンセスであるとなれば感慨も深い。ラグビー会にとっても歴史的な日である。

ゲーム開始前から歓迎ムード一色。特別感は最高潮。いつもより大人数の楽団によって、「カロラン」が演奏され、「ブレッドオブヘブン」が演奏された。そして、「ゴッドセイブザキング」が演奏され、「ランドオブマイファーザー」が演奏された。

肝心のゲームの方は、まったくおとなしいものだった。反則もすくないし、レフリーに不満を言ったり、選手同士が諍いを起こすことなどまったくない。両協会のお偉方からはキツイ苦言やご指導が事前にあったに違いない。

何事も起こらずすんなり終わった。プレーも平凡、得点も平凡。結果も平凡。

そんな中でイングランドのオーエンファレルは居心地が悪そうであった。猫をかぶっているのか見た目はおとなしく見えたが、その内心の乱れはゴールキックに現れる。正直なものである。この日はイージーな場所から外しまくってしまった。6本蹴って成功は2本だけ。

イングランドの改善、ウェールズの再生の道はまだまだ長く遠いと感じた。

世界ランクではウェールズがついに10位まで落ちて、代わって日本が9位に浮上となった。

 

3,地獄の呼び声と悪魔の囁き
フランスースコットランド 31−21

ラグビーに限らず、点差が開いたりして、勝敗が序盤に決まってしまう場合がある。そうなると、ゲームとしての興味が薄れ、緊張感も薄れ、パフォーマンスも悪くなり、全く見るべきものが無い価値の低いものになってしまう。もちろん選手は本気でやっているのであろうが、人間のやることであるので仕方ない部分がある。

ラグビーにおけるセーフティーリードの存在なんて幻想にすぎない。そんなことは解っている。解っているはずだ。でも負けている側にとっては、15点差、22点差という特別な得点差の重圧を背負うほど苦しいものはない。15点差を悪夢の得点差というなら、22点差はもう地獄の得点差だ。「あきらめろ、あきらまてしまえ」という悪魔の囁き地獄からの呼び声がだんだん大きくなる。

そんなゲームの場合のノーサイドは、はなにか虚無感にとらわれ、後味も悪く、悲しい気持ちになってしまう。

このゲームは、そのような危機をすんでのところで何度も何度も乗り越えて、最後の最後までゲームがゲームとしてが成り立った。緊張感が切れなかった。ゲームがスポイルされないことは、ラグビーファンとして非常に喜ばしい。

最初の危機は開始早々に訪れた。

4分に簡単にフランスはFWで圧倒、連続攻撃からヌタマックがトライ、ゴールも決まる。7−0。しかもその直後の5分にスコットランド、ギルクリストがレッドカード。FWの接点の力に差が見えてきた中、EWの中心であるロックを欠いて残り65分を戦わねばならない。さらに、10分フランスは若きニュースターのヂュモティエ右隅にトライ。12−0。フランスは勢いがよくかさにかかってくる。普通ならこれでゲームはこわれてしまっても仕方がない。次の得点をフランスが上げれば15点差となり、「悪夢の得点差」だ。しかも一人少ない。悪魔の囁きは一段と強くなる。

しかし、その後のスコットランドの対応は素早かった、FWの劣勢の流れを返るために、ハーミッシュワトソンからロックのジョニーグレイを投入する。その直後に今度はフランスの3番ハモスにレッドカードが出て、残り70分が14人対14人のゲームになった。最初の危機は去ったかに思われた。次の得点をスコットランドがスコアすれば勝敗の行方は全くわからなくなる。

しかし二番目と三番目の危機が次々に訪れる

次のトライはFBのトマラモスによって、フランスに生まれてしまう。19−0。また微妙な点差だ。次の得点がフランスによってスコアされれば、22点差という「地獄の得点差」の領域に達してしまう。

この危機は25分にフィンラッセルからパスをうけたヒュージョーンズのトライによって乗り越える事ができた。19−7。しかしフランスがPGを決め22−7というまた「悪夢の得点差」である15点差になり前半は終了となった。

後半もヒュージョンズのトライで危機を脱することができた。22−14。8点差。フランスがPGで逃げ25−14という11点差となる。ここでスコットランドがフロントロー3枚替えを決行。するとスクラムの力関係がスコットランド側に大きく傾く。そうなるとフィンラッセルのトライも生まれる。25−21、4点差。全く勝利の行方はわからなくなる。もう悪魔の囁きは聞こえてこない。

しかし、今度は時間との戦いが待っていた。勝敗もさることながら、時間とボーナスポイントをかけての争いである。ここでも今度はいろいろな場所から両チームに「悪魔の囁き」が聞こえてくる。

「負けてもいいぞをBPを取れ」「このまま逃げろ4トライ目をねらうなよ」「もう少しで勝てるぞ、しかもBPもとれるからな」

「悪魔の声」に従ってトライを取りに走れば、逆にボールを奪われて、トライを返されてしまう可能性が高くなる。別な方向からの「悪魔の声」にしたがって、このままおわってBPを確実に確保する選択もなんとも後味が悪い。

状況を整理するとこうなる

現在 フランス25点 3T スコットランド21点 3T

このまま終われば 
フランスは勝ち点4、スコットランドは勝ち点1

スコットランドが逆転トライを上げれば、
フランス勝ち点1 スコットランド勝ち点5

フランスがトライを上乗せできれば
フランス勝ち点5、スコットランド勝ち点0

最後に悪魔の声を振りさって、ボールを取り返し、トライを上げたのはフランスであった。32−21でノーサイド。スコットランドにBPも入らなかった。

最後のスコットランドも悪魔の囁きを跳ね飛ばしてトライを取りに行った結果なので、好感がもてる。ラグビーのゲームはこうでなければならない。

サッカーのW杯の予選プール最終戦で、引き分けに持ちこむとか得点差をキープし故意に負けるなどがあるとスポーツファンとしては非常に悲しくなる。

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