10月1日 南アトンガ戦 肉弾の衝撃

ラグビーのコートは縦100m横は66mほどだが、両チームのゴールラインから5mのところに申し訳無さそうに点線が引かれている。これが5mラインだ。この5mライン上はラグビーのゲームでもっとも激しいコンテストが繰り広がれる場所である。近代ラグビーになりこの5mラインが設けられるようになってからは、スクラム、ラインアウト、モールの6割がたはこの場所で行われる、しかもどれもが勝敗に関わる重大なセットプレーとなる。ここでの攻撃側はもうトライが目前で必死の形相で力の限りをぶつける。ディフェンス側もここが最後の砦と食い下がる。ここでの1mmの後退は中央の20m程の陣地の後退に匹敵するといってよい。

マルセイユのスタッドヴェルドローム、南アフリカ対トンガ。ピッチからわずか10mほどの至近距離、ちょうどこの5mラインの目の前に陣取った私達は、はからずも人知をこえた世界最大の激突を、何度も何度も繰り返し目にし、肌で感じることになった。

もはや冷蔵庫とかドラム缶どころの話ではない、両チームの体はまるで軽トラックの大きさ。掛け値なしの肉弾対決。トンガのプロップ、タメイフナの公称の体重は151キロ。しかしだれもそれを信じない。160kgはゆうに超えているだろう。日本でもおなじみのエツベスは203cm、若手のオリエも201cm。彼らがこの5mの攻防では、普段の数倍の力を出すことができる。そして踏ん張り、ぶつかって、跳躍する。

選手たちの激しい息遣いや地面を蹴るスパイクの音、わめ声に近い指示に混じって、肉と肉ぶつかり合うと同時に発生するものすごい衝撃音が、そのまま空気の振動となってこちらの肌に、毛穴に直接飛び込んでくる。

人間がこれだけ激しくぶつかっても壊れないものだろうかと驚愕だ。ただただあっとうされる。南アフリカはいつもは冷静だが、相手トンガまともに挑んききたら、力で圧倒するという意地も出よう。世界一のぶつかり合いであると言って良い。

このスタジアムは7万人ほどはいり、四面に絶壁のようなスタンドがそびえる。ここからでは最上段の人影は人とは判別できない大きさだ。スタンドの高さは8階建てのビルほどに達する。最上段からがこの肉弾戦はどう見えるのだろう。ちょっと心配になった。

7万人の観衆の中でも、この激突の衝撃をそのまま全身で受け止める経験をするのは、私達だけほんの数十人だけの特権だったと思うと、お金に変えられない特別な幸せを感じた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です