オリパラのゆくえ

普通「失言」とは、言ってはいけない言葉を間違えて口にしてしまったことを言います。本音とは関係なしに、口足らずに、言ってはいけないように思えるような、誤解を与えるような表現になってしまったりすることです。全く差別的な感情や意図を持っていなかったとしても、日本語として長年生活に染み込んでいる言葉が、そのことが誰かを傷つける言葉だということを忘れてしまうと、つい出てしまうことがあるものです。言葉の使い方は難しいものです。

森発言の稚拙さは、そういう意味の失言とは全く次元が異なっていることだからです。一つは差別の意識が存在の中に染み込んでいて、心底それが当然だと本心から思っていることです。このことだけでもすごいことです。確かにこのような人は世の中にはまだたくさん存在しているとは思います。しかし、そのような人は、自分が差別的感情を持っていることを上手に隠して生活しているものです。それが良いか悪いかは別にしても、個人の感情が周りを不愉快にさせるものならば、それを表に出さないのは礼儀や社会生活の知恵もしくは社会常識のようなものでしょう。2つ目はこのようなことが全くケアされていないということです。3つめがそのようなデリカシーや社会常識のない人物が組織のトップの座にいるという事実です。

森氏にはさらにすごいことがあります。
そこに発言や行動が周囲にどのような影響を及ぼすのかの想像力が全く働いていないことです。あらゆる生物の中で人間だけが未来を想像して予測する能力があります。これは人間誰しも幼児期を過ぎた頃には形成されてきます。森氏は自ら老齢、粗大ごみと言いますが、老齢者ではなく、生まれたばかりでまだ純粋むくで知恵の備わらない段階の人のように思われます。何年生きてきたかはわかりませんが、通常の社会生活や人生経験をしてきた人とは思えません。

撤回会見で図らずもそんことが浮き彫りになってしまいました。発言がなぜいけないのかをそもそも理解できていないことも見えてしまいました。

また、思いの通りに進まなければ上からの強権で押さえつけて、強引に進めようとする方法論や、自分の浅儚な思いつきに他を巻き込もうとする幼児的な自己顕示欲など未成熟としか思いようがありません。もちろん今に始まったことでは無いのですが。

このような人間が育って何十年も組織の中で生き残ってしまう日本という「社会の闇」を感じざるを得なくなります。しかもそれを組織のトップに据えてしまうような力学構造が組み込まれているということを想像させてしまいます。日本中どのような組織や団体の中にも同じような危険性があるかもしれません。恐ろしいことです。

予定調和型やシャンシャン型の意思決定組織が日本社会のほとんどではないでしょうか。これは、日本に真の意味での民主主義や人権などという考え方が根付いていないことにあると思われます。多くの組織では、個人で意見を持つ。個人の意見に耳を傾けるというようことが行われているようには思えません。そのような教育もされてきませんでした。今度は女性蔑視発言、女性差別発言よりさらに根が深い問題になってきました。

いづれによ、これでコロナ禍で実現できるかどうかが微妙だったオリンピックパラリンピックは、中止の方向に世界世論がさらに大きく傾きました。一山当てようとした人はさておき、一部の開催を心待ちにしていた人はもちろん、実現のために昼夜寝食を忘れて活動してきた関係者は、ガックリです。しかし、そのような努力していた関係者も疲労困憊していて限界に近くなり、これである意味上手なアリバイができて、その肩の荷が降りたことかとも思います。コロナに毎日立ち向かっていた人たちにとっては、「中止になるのをコロナのせいにしたくない」という思い、「コロナにだけは負けたくない」という思いがあったからこそ戦ってこれたと思います。「コロナには負けなかった、でも森さんの発言には負けました」という言い訳ができ、自分の心の中のバランスを平常に戻すことが可能になります。

それでも、森氏は辞職をするつもりが無いようです。

こうなると、もうやめても辞めなくても同じです。
たとえ中止にならなくてもオリンピックパラリンピックは不完全な形での開催になることは間違いありません。そのことで良しとしなければならないように思えます。その路線でオリンピックパラリンピックは開催することになるのでしょう。

今回の発言が、ラグビーとラグビー協会にまで関係してきましたので、下記も書き加えておきます。

森氏は石川の高校から早稲田のラグビー部に推薦で入学します。しかし、数ヶ月できつい練習についていけなくなり、早々と退部することになります。これだけでもなかなかできることではありません。さらにすごいのは、たった数ヶ月だけの在部なのに、自ら早稲田ラグビー部出身ということを鼻にけて自慢げに公に言い続けてきていることです。(話としては早稲田を辞めなかったのは大西鐵之助監督に諭されたことになっています)(社会党政権だったときに首相の明治出身の村山氏を国立に招待して一緒に早明戦を観戦したことがあります。)

最後に森氏がラグビーフットボール協会内での問題行動だったことをいくつか思い出しました。これでも公になったものだけです。

1、何年か前の高校花園大会での閉会式、最後に挨拶に立った森氏は壇上に上がらずグランド上から挨拶。「壇上から挨拶は偉そうで嫌」と言わんばかりでした。その前に壇上で挨拶した役員や、それらを段取りした関係者は身も蓋もありませんでした。

2、W杯日本開催の発表の記者会見の席(ネットで拝聴)。台本通りに進行しようとしていたアナウンサーの矢野氏に森氏が頭ごなしの恫喝。当時でもパワハラもいいような発言。「列席の国会議員の紹介が先だろ、何やってんだ」。矢野氏はしどろもどろで涙目になっていました。

3、ラグビー協会の名誉会長を辞める際のすったもんだです。「俺が辞めるんだから年寄りは全員やめろ」の発言で、東芝の岡本会長も同時に辞任することになりました。名誉会長にこんな権限がある組織は見たことがありませんでした。

 

 

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