名曲紹介 「君は天然色」の謎 

1、プロローグ モノクロームの欧州

これは秋から冬にかけて、北ヨーロッパへ滞在したことのある方なら経験があるはずだ。羽田や成田に帰国した瞬間に、誰もが、目に映る景色の色鮮やかさにに驚かされる。「うわつ、日本でこんなに色に溢れていたんだっけ」となる。まるで香港やタイのバンコックへ始めて訪れた時の様な感覚を感じてしまう。案内看板の色から、広告の看板、店の看板、そして車窓の景色、ビルや建物の色屋根の色、空の色、雲の色、山々や森、樹木の色。自然の中にも場違いな色とりどりの建造物が混在している。そこにあるのはビビットで無秩序な色の洪水なのだ。日本はアジアなんだと再認識する。逆を言えば、それだけ冬の北ヨーロッパには色がない。灰色と白と黒、あってもベージュであり石とレンガと、雪や霧。いわばモノクロームの世界なのだ。(哲学の思考実験に「マリーの部屋」というのがあるが理屈はわかっていても本当の色をしらないのだ)。日本の浮世絵に憧れていた画家のヴィンセントゴッホが南仏のアルルについたときに、「南仏は日本だ」と感動して、色使いに開眼して短期間にほとんどの名作を描き上げたことも妙に納得する。

欧州では「思い出はモノクローム」になってしまうのです。

2、この曲へのきっかけ

以前の記事「さらばシベリア鉄道の謎」で書いた通り、シベリア鉄道の2人はうまく結ばれることはできず、しかし、彼の方はしぶとく生き残っているに違いないというところまで妄想が膨らみました。そして残る謎は彼女の方です。どこかに謎を解く手がかりがないかというところで私はこの「君は天然色」に行き着いたのでした。ロンバケの1曲目です。コンサートの始めりの様にAの音でチューニングしてからカウントが入ってKEY Eの賑やかなイントロで始まります。(歌ではKEYはDになります)

3、ここでもやらかしていた大きな勘違い

私は、この曲調にごまかされていました。また、これは、なんとも恥ずかしいのですが、「さらばシベリア鉄道」の「冬に北の空覆う」の記憶違いと同様、やはり歌詞を音だけで覚えていて、一番大事なところを間違えているところが分かったのです。そのことを40年間もこの年になるまで気がついていませんでした。

「美わしのCOLOUR GIRL」を「麗しのカバーガール」だと思っていたのです。すみません。

その結果この歌は、「グラビアに出てくる水着のアイドルへの妄想と憧れを歌っている軽いノリの曲である」と思い込んでいました。この歌詞の前に雑誌を見ていてうたた寝した様なセリフがあったこともこの誤解を後押ししてるかもしれません。また、思い出はモノローグだとも勘違いしており、一人で勝手に一方的に届かないアイドルへの憧れの独り言の歌なのかなと思っておったのです。

しかし改めて聞いてみると、この歌詞は「哀しい」歌です。失った彼女、元に戻れない関係を歌っています。

そして、ふと背筋が凍りつきました。「ひょっとしてこの彼女は、だいぶ前に亡くなっているのでは」という感覚に囚われたのです。

そうして聞き直してみると確かにその様に聞こえて来ます。モノクロのポライロイドは遺影に感じてしまいます。

4、衝撃の真実

ラグビー観戦の途中で、恐る恐る義兄に尋ねてみました、「ひょっとしてこの彼女は死んでいるじゃないの」

そしたら、その答えは意外なほどあっけないものでした。しかも衝撃の事実でした。

「知らないの、この曲は松本隆が病気で亡くなった妹のことを書いた曲なんだよ、有名な話だよ」

「ええっ」これも私だけが知らなかったことなのか?
ポケットに隠されていたのは「病気」だったとは!

「思い出はモノクローム 色をつけてくれ!」
それは、それは、悲痛な叫びです。

 

5、「さらばシベリア鉄道」での関係はどうなるのか

そうなるとですよ、もしこの彼女と彼氏と「シベリア鉄道」の彼女と彼氏が同じであったとしたら。
シベリア鉄道を巡っての追跡劇の裏に潜んでいた、「死」の影が一段と強くなります。彼は彼女が病気を隠しているなんてまだ知りません。彼女の方は彼を追いかけてはいますが、「病」やその後の「死」がその彼女を置いかけて来ていることになります。時は迫っています。シベリア鉄道は雪を蹴散らして猛スピードで走ってくれています。彼女はもっともっと急いで欲しいと願っています。

彼にとっては、今やシベリア鉄道とシベリア鉄道に乗って追いかけて来ている彼女は完全に一体化しています。「不意に愛の意味」は知ってしまっています。しかし、ポケットに隠し持っている病気の秘密のことは知りません。

さらに妄想は膨らみます。彼女は彼とは本当は兄妹の関係だということを知らないで、彼だけが彼女が実の妹であるのだと知っているのだとしたら、、、、、。これは「冬のソナタ」の世界になってしまいます。そこまで考えるのはやめときましょう。

しかし、ここでタイトルの「さらばシベリア鉄道」の示す意味がますます重く、深くなって来てしまいます。とてもやるせないのですが、その意味は「彼女の死際には会えなかった」のだと言わざるを得なくなるのです。

それから数十年経ってからの状況が「君は天然色」で歌われているのでしょう。
彼はKGBの活動から手を引いて、冷戦終了後も生き残って、ベラルーシか、ウクライナの冬の欧州にいます。そして机の脇にあるポラロイドの遺影を時より眺めては彼女のことを思い出します。がしかし…。

冒頭に書いた様に、欧州の冬に長くいると日本では当たり前だった「色」のことを忘れてしまいます。彼も長い欧州での生活で既に色を忘れ始めています。

一方、音楽は目には見えませんが確かに色があります。哀しい色や楽しい色もあれば、モノクロームの陰鬱な色もあります。この曲は賑やかで楽しそうな音の洪水です。彼としては、こんな音の助けをかりながら、なんとしても、色あせてしまった思い出の色を取り戻したいという思いであります。

 

6、最後に

 

思えば、今回の「シベリア鉄道の夜」の長い長い謎の迷宮に誘い込まれるきっかけになったのは、そもそも真夜中に「大瀧詠一の葬式」という妙な夢を見てしまったことでした。

その時はこうして最後まで「死」にまつわる話で終わる結末になるなんて、予想だにできませんでした。

 

 

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