ラグビーを哲学する 実存主義の立場から キルケゴールとヤスパース

「ラグビーを哲学する」のシリーズは、多くの哲学思想にラグビーを当てはめて考えようとする試みです。ラグビーの本質をよく知ることにもなりますが、同時に哲学のおさらいになり、普段の生活を見直してみることにもつながっていくかなと思っています。

今回は実存主義を考えます。

実存とは、今ここにいる私の意味です。カントなどそれまでの哲学が一般的な心理を追求するに反し、個人個人の真理を具体的に追求すると言う考えです。人一人ひとりの幸福を考えるということで現代につながります。
当時の時代背景は、科学技術が一般化し、産業革命が進んで、生活が画一的になって没個性の時代になったことと、神の存在が希薄になって信じるものがなくなってきていることがあります。

キルケゴール

実存主義はキルケゴールがその祖とされています。

肖像画を見ると痩せていて、神経質で、暗そうな性格に見えます。

実はまさにその通りでキルケゴールは生まれながらに罪を背負っていました。コペンハーゲンの商人の家の7人兄弟の末っ子として生まれますが、23歳の時に父から父が女性をレイプしてできた子であることカミングアウトされます。その衝撃をキルケゴールは「大地震」と呼ぶほどの大ショックで、兄弟の5人までがキリストと同じ34歳で早死にしており、これはその罪が原因であるとも思い込み、自分もそうなると思いこみます。このことで婚約者にも一方的に別れを告げます。絶望状態の中、一旦は放浪生活を送りますが、その後、信仰によって立ち直り、自分とも向き合い様々な著作を残しました。

キルケゴールは、実存を3段階で説明します。最初は「美的実存」で快楽や欲望であれもこれも手を出すと言う実存状態です。しかし人はある時にこの状態に虚しさを覚え絶望に落ち入ります。次に「倫理的実存」の状態になります。これは、道徳的に正しいことを行なうように努める状態です。「あれもこれも」から「あれかこれか」と自分にとって正しい道かを選択することになります。しかし人間はこれでもまた壁にぶつかります。どんなに頑張ってもそんな立派な生活が送れないと実感してさらに大きい絶望に落ちます。そのショックを超えた後に「宗教的実存」の域に達し、神の前に単独者として向き合うことができると言うことです。この 絶望状態を「死に至る病」と表現しました。死に至る病への処方箋は希望であるのですがなかなかその希望を手に入れることが難しくなります。

これはラグビー部などになるベタな青春スポーツ物語のようです。

ちょっと運動神経が良く、見た目もクールでちょっとカッコも良い地方の高校生が、鳴り物入りで上京して、大学のラグビー部に入ります。女性からも人気でチヤホヤされます。しかしそこでは仲間を小馬鹿にして練習も真面目にぜずに、夜は盛場に出歩きます。これは「あれもこれも」の「美的実存」の状態です。

ところが全国レベルのゲームでは鼻をへしおられ、ボコボコにされてしまいます。そうするとそんないい加減な生活に虚しさを覚えます。そして大いに個人で反省して、仲間のために心を入れ替えます。練習も真面目にやります。「倫理的実存」の状態です。

しかし結果はやはりボコボコにされてしまって、さらには練習のしすぎもたたって、再起不能の大怪我をおってしまします。ここでの絶望は「死に至る病」です。

しかし、病院のベット「ラグビーの本当の意味は何でるか」と言うことにやっと気づきます。そうして、最終的に自分の生きる道を見つけると言う物語です。ラグビーにただ一人で真摯に謙虚に向き合うことができるようになります。「宗教的実存」の域になったと言うことができます。苦しいリハビリを続けて奇跡のカムバックするという 

こんな筋書きです。

 

 

ヤスパース

ヤスパースの考えもほとんどキルケゴールと同じですが、絶望を「限界状態」と呼びます。まさにニッチもサッチも行かなくなった状態。そこで超越者に出会います。いかなる客観も主観なしには存在しえないし、いかなる主観も客観なしには存在しえない。両者は相関的なものである。超越者はこの2つの特性を持ち合わせた者です。。これらの者同士が交わりによって、相互に高め合っうことができるのです。これを「愛の戦い」と呼んでいます。

先ほどのベタなスポーツ青春物語に下記のエピソードが追加されます。

ラグビーでは仲間がいます。個人で悩むのではなく、チームメートの何人かも同じように限界状態になるのです。そうしてチーム内で対話を重ねます。超越者同士はある時は真実を求めて意見が分かれることもありますが、真剣な話し合いになります。「愛の戦い」をすることでチームとしても、謙虚な姿勢で、復活を果たすという物語です


キルケゴールとヤスパースは神の存在を信じており、有神論的実存主義と呼ばれています。

 

 

 

 

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