フランス史上の恐るべき女子達 第六回 デュバリー夫人 悲惨な断頭台

2023年W杯でフランス各地を訪れる際に、歴史を知っていればさらに訪問の価値も意義も深まると思います。

フランスの歴史の中には、時代を左右させた様々な女性の姿があります。もちろん誰も知っていて有名なのはマリーアントワンネットやジャンヌダルクなのでしょう。しかしそれ以外にも、数奇な運命の元、私欲と陰謀が交錯し、裏切りと背徳に染まった女性がたくさんいます。そして彼女たちが結果的に歴史を動かしています。それが大抵はおぞましいいほどの血の匂いがして生臭いものなのです。その中には、単なる噂に過ぎないものや、いつの間にか闇に葬られて史実としては認められていないこともたくさんあります。このシリーズではそんな話を掘り起こしてみたいと思います。

 

デュバリー夫人は、「首飾り事件」などマリー・アントワネット側からは悪役として描かれています。しかし、そんな悪い人ではありません。だた世間知らずだったのか、時代に翻弄されただけなのか、彼女も数奇な運命を辿り、最後は最も悲惨な断頭台の露と消えました。

田舎娘からベルサイユへ

彼女はシャンパーニュ地方で私生児マリーアンヌベギューとして生まれました。田舎娘です。でも幼い頃に親戚に引き取られパリに出ると、いろいろな人に助けられ、教育も受け、洋裁店でお針子として働いていました。

その頃、死刑執行人のサンソンとも顔見知りになり、その関係は長くは続きませんでしたが、二人は恋人同士のような関係までになりました。数十年後このサンソンにより、デュバリー夫人の死刑執行がなされるという、数奇な運命になるのですが、この時は二人ともそんなことは夢にも思ってもいないのです。

さらに、デュバリー子爵に引き上げられ、夜の接待役として活躍します(また貸しですね)。彼女の評判は評判を呼び国王ルイ15世に気に入られます。貴族でなければ宮廷に出入りできないため、デュバリー子爵の弟と形だけの結婚することで貴族の一員となリます。その弟はその時点で用無しになったため毒殺されます。ここからデュバリー夫人と呼ばれるようになりました。そして、ルイ15世の正妾になります。ついに宮廷を取り仕切るまでに出世します。トントン拍子です。
(余談ですが、ルイ15世はデュパリー夫人のカリフラワーのポタージュが大好物でクレーム・デュ・バリーと名付けられました。)

 

宮廷からの下野と革命

宮殿でのマリーアントワネットとの確執の逸話は有名な話です。マリーアントワネットはヨーロッパ最上流階級のオーストリアハプスブルグ家からルイ16世の嫁にきたわけです。最下層から成り上がってきた、デュバリー夫人を毛嫌いしていました。お家の主導権争いですね。

マリーアントワネットの言葉が残っています。
「彼女は考える上で最も無価値で失礼な生き物」

デュバリー夫人はルイ15世が死亡すると、「首飾り事件」などもあり、パリ郊外に遠ざけられますが、そこですぐに新たしい恋人を獲得。今度はパリ軍司令官ド・ブリサック元帥です。

しかしここでフランス革命が勃発します。

革命の中で、新しい愛人だったパリ軍司令官ド・ブリサック元帥が虐殺されます。デュバリー夫人はイングランドへ逃亡して、数年は「のほほん」と暮らします。

ご存知の通り、この後革命時の王宮は大変な騒ぎとなるのですが、すでにタイミングよく下野しているデュパリー夫人には、全く関係のないことになりました。

 

軽率な帰国

このままイングランドへ居ればよかったのですが、彼女は突然パリに戻ってくるのです。時は恐怖政治時代、すでにルイ16世も宿敵マリーアントワネットも、死刑執行人サンソンの手でギロチンの露と消えています。こんな時に帰って来れば当然捕まってしまい、ギロチン送りは当たり前です。なぜ帰ってきたのかというと、「パリに残してきた宝石の山を取りに戻った」という話です。なんともとんちんかんな、間抜けな、世間知らずな話です。

革命中、最も悲惨な断頭台

死刑執行人サンソンは、昔の恋人に数十年ぶりに再会することになりました。その場所は断頭台です。当時パリでの死刑執行は全てこのサンソンの一家が取り仕切っていました。

革命では数千人ともおよぶ多くの人がギロチンで処刑されました。ほとんど全ての人は、矜持をもって静かにギロチンにかかったのですが、デュバリー夫人だけは、ギロチンを前にして、命乞いをし、激しく泣きわめきました。

いつもは冷徹に仕事をこなす彼でさえ、泣きわめく姿に心を乱され、うまく死刑を執行できなかったと記録に残っています。

その日の死刑執行人サンソンの日記には
「誰もがデュパリー夫人のように泣きわめけば良いのだ。そうすれば(同情をかって)フランス革命であれほどの血を流さずにすんだはずだ」と記されています。

 

 

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