きらめくスター選手の極上のプレーがこれでもかと炸裂。これぞラグビーエンターテイメントだ。
1,ハイスピードで濃厚な最初の5分間
南アフリカは先週主力を温存して、先発隊として主力14人をオークランドに送り込んで入念に準備を進めてきた。しかし、この日のオールブラックスの気合の入りがそれ以上にすごかった。
キックオフ後のスクラムから両チームが、息もつかせぬ攻防が続く。オールブラックスはウィルジョーダン突破を見せれば、南アもクワッガスミスやデクラークが何度も激しいタックルで止める。双方極上のプレーのオンパレードが続く。テリトリーは相手の22mの内側から途端に自陣の内側まで一度はもどされる。プレークダウンでのボールの奪い合いの激しさはと、球出しのスピード、ラインブレイクの切れ味など、観戦慣れしているオークランドのファンでさえ、そのどよめきがしばらくおさまらなかったほどであった。最後はウィルジョーダンが自陣からのハイパンをキャッチしフォローしたアーロン・スミスのトライとなる。その間約5分間。画面に釘付けだ。この濃厚過ぎる5分間の攻防を見るだけでも、高いチケット代も元が取れたというものだ。
この一連のはハイテンポは、ほとんどアーロン・スミスが作ったものであり、そのアーロンスミスが最後にトライで決めて閉めるところなど、これは出来すぎだ。だれがこんなシナリオを書いたのだろう。
この勢いのままその後もオールブラックスはこの勢いが続く。
考えてみれば、アルゼンチンに快勝して勢いに乗るオールブラックスに対し、南アの主力陣はこのゲームが初戦のようなものであった。いきなりのスピードについていくので必死になってしまって翻弄された。
2,後半は南アも黙っていなかった
後半になると今度は南アの「きら星達」も黙ってはいない。
控えから出場は、おなじみ千両役者のマルコムマークスだ。ラインアウトからモールから押し込んでのトライ。これぞ必殺技。これは日本の江戸川で何度も目にした見慣れた光景。わかっていても止められない。それはさすがのオールブラックスであってでもある。そのプレイ一つで、ヒートアップするオークランド一瞬で氷つかせてしまった。
そして次はジャスティンコルビだ。
コルビはライン際を猛スピードで駆け抜ける、必死にバックアップしてくるモウンガ。しかし、コルビは消えた、いや消えたのでない飛んだのだ。飛んだのはゴールライン5m前である。そのままモウンガの上空1mを飛行し、ゴール隅にトライ。これこそウィング、まさに翼を持っているようであった。
追い上げる南アをふりはらったのがウィルジョーダンでありモウンガである。
一言で言えばウィルジョーダンは「もっている」。今回ももキックがうまく手におさまった。毎試合トライを取り続けている。そしてモウンガも一瞬のすきを見逃さない。時間帯もわかっている。モウンガを一言で言うなら「見えている」のだ。空間だけでなく時間の持つ価値や意味が見えている。
しかしそれでも最後まで愚直なのが、クワッガスミスだ。
彼は、この日最も激しくタックルを決めて、相手ボールを何度も掠め取っている。その都度会場がどよめく。それが80分続く。ものすごい運動量である。そして最後にそのクワッカスミスが決めてくれた。スクラムからブレークし、タックルをかわしてのトライ。普段は地味めの彼だが、この日ばかりは「タックルだけではないぞ」とのアピールだ。
ゲームは序盤と勝負どころにオールブラックスが圧倒した形だが、勝敗だけではない。個性豊なスターたちが、期待している以上のプレイを惜しげもなく披露する。WC前のウォームアップマッチだなんでだれが決めたんだ。こんなゲームなら勝ち負けなんて関係ない。ただ単に満面に笑みが浮かび。幸せな気分になってしまう。この幸せはどんな金持ちでもお金で買えるものではない。ラグビーファンの特権だ。
考えてみれば以上名前の出た選手たちが、ほとんど日本で見られるのだ。
デクラーク、アーロン・スミス、モウンガ、もちろんマルコムマークスに、クワッがスミス。ディヤハーにデュトイもいる。来年もきっと日本に住んでいる幸せを感じられるにちがいない。