6ネイションの魅力
勝敗にこだわり、1点でも相手を上回ろうとする気迫。体を張った必死のディフェンス。かっこ悪くていい、どんくさくてもいい、なりふり構わず意地と意地をぶつけ合う。
6ネイションは南半球にはないラグビーの魅力にあふれている。
それは6ネイションの魅力が、ラグビーそのものや、ラグビーの名勝負といわれた伝統だけでなく、欧州の長い歴史のある国同士の関係を背景としていることにあるのは間違いない。
11世紀のノルマン・コンクエストから100年戦争、トラファルガー海戦、アメリカ大陸での植民地戦争など、何度も覇権をあらそった両超大国フランスとイングランド。
血みどろの戦いで独立はしたが、まだ北アイルランド問題を抱えている。アイルランドとイングランドの関係。
古くはローマ帝国時代のカエサルのガリア遠征。アナーニ事件。そしてハプスブルグ家の覇権を崩すべく何度もイタリアに攻め入ったフランス。
プレイブハートでお馴染みののウィリアムウォレスの活躍から、全土も巻き込んだ主教戦争。そして今でも独立を目指しているスコットランドとイングランドの関係。
そういった背景もあってか、普段ラグビーに関心がない市民もこの日ばかりはスタンドに駆けつけるのだ。
数万の観衆が一体で、地響きのような唸りで国家やラグビーアンセム、応援歌を大声で歌うために。
1年に一度しかない(ホームでは2年に1度)の待ちかねた対戦を迎えるために
勝っても負けても、仲間とゲーム後にはパブでパインドグラスを交わすために。
ほろ苦かったり、生温くても味わい深い、ビールの味を確かめるために。
そしてそこでは普段の溜飲をさげたり、慰め合ったり、はたまた相手のファンとも友好を築いたりするために。
第三節は友好国同士の対戦
そんな中今回の第三節は、3ゲームとも古くからの友好国同士の対戦が組まれるのだ。
イタリアーアイルランドはカソリックの国同士である。18世紀から19世紀、貧しい両国は新天地を求めて、アメリカへの多くの労働者階級の家族が移民した。しかし、自由の国アメリカであってもカソリックは長い間差別の対象とされていた。禁酒法の時代には闇でのつながりや抗争もあった。
ウェールズとイングランドは歴史的に古くからイングランドの懐柔政策、同化政策で友好的な関係を作ってきた。その関係は「プリンスオブウェールズ」の習わしに端を発する。皇太子はウェールズの地で出産され、生まれてすぐに「プリンスオブウェールズ」になるのだ。ユニオンジャックにレッドドラゴンが描かれていないのは、古くから表面上はウェールズはイングランドと友好的であったからである。
フランスとスコットランドは、イングランドのエドワード1世のスコットランド侵行に対抗すべく13世紀に同盟関係を結んだ。これを「古い同盟(=オールドアライアンス)」という。世界最古の同盟であり、いまもその同盟関係は続いている。この同盟関係で、100年戦争ではスコットランド軍はオルレアンで奮闘したし、主教戦争ではユグノーに加勢した。メアリースチワートがスランソワ1世の宮廷で育ったのもこの同盟関係。
そして、「オールドアライアンス」はスコッチを使ったおしゃれなカクテルにその名を残す。
この第三節に限っては、勝っても負けても、どのスタジアムのPUBで、敵味方なくノーサイドの光景が繰り広げられるに違いない。
第三節対戦カードと見どころ
イタリアーアイルランド 25日 23:15 ローマ
アイルランドはセクストンが不在、ロスバーンが初めての先発となる。Bアキも久々の先発での出場となる。イタリアは初戦のフランス戦ではすばらいパフォーマンスだったが、イングランド戦では相手の荒いラグビーに付き合ってしまった。イタリアはスタンドオフにガルビジを抜擢した。品行方正なアイルランドに対しどう立ち直るのかが見どころになる
ウェールズーイングランド 26日1:45 カーディフ
まったく調子の戻らないウェールズは、AWジョーンズなどロートル(失礼)を呼んだ、出遅れたハーフベニーもやっと先発できる。そのなかでスタンドオフだけはOウィリアムスを抜擢。この作戦が吉とでるかどうか。
対するイングランドはなんとひさびさにアンソニーワトソンがWTBで先発する。低迷する両チームがどうチームを立て直すのか、勝ち負けもあるが、ラグビーの質が問われる。
フランスースコットランド 27日0:00 サンドニ
絶好調のスコットランドが、8万人のサンドニに乗り込む。
「オールドアライアンス」を守って、イングランドをやっつけてくれたスコットランドを、フランスファンは大歓迎で迎えるはずである。
この第三節で一番の注目カードである。ボールがよく動き、一瞬のスキも見逃せないスリリングなラグビーが展開されるのは間違いない。
スコットランドもフランスも控えのFWを6名入れてきた。スコットランドでは控えのSHにアリプライスの名前がある。前節では切り札のジャリベールの投入タイミングをミスってしまったフランスも含め、両チームとも交代選手の使い方が鍵を握るとおもわれる。