アイルランドーイングランド 29−16(HT10-6)
2023年3月18日。
間違いなくこの日はアイルランドにとって一番幸せな日として、記憶に残る日になる。
そもそも前日の3月17日はアイルランドの人たちにとっては一年でいちばん幸せな日である「セントパトリックデー」であった。日本でもいまではすっかり馴染みになった、シャムロックや緑を身にまとってパレードする日である。世界中でギネスが一番飲まれる日でもある。そもそもは4世紀にアイルランドにキリスト教を広めた聖パトリックの命日であって、3月17日が平日の場合は前の週の週末にさまざまなイベントなどが行われる。
この3年間はコロナのパンデミックでこの日を大々的に祝うことが出来なかった。今年はコロナも収まり、先週11日の土曜日から1週間は世界各地で完全に緑一色となった。
そしてそれがこの日(18日)のアビバスタジアムの快挙で2日連続の祝祭日となったのだから、こんなハッピーなことはない。ダブリンのパブではギネスが底をついたに違いない。ギネスだけにはおさまらず、夜もふけるに従って、アイリッシュ・ウイスキーのジェイムソン、ブッシュミルズ、更にはポティーンという60度以上もある蒸留酒も相当飲まれたはずである。
他のイギリス連邦の3カ国を破ることを「トリプルクラウン」フランスやイタリアをも破って全勝優勝することを「グランドスラム」という。この日アイルランド代表はこれど同時に達成した。5ネイションから6ネイションとなる長い歴史のなかでアイルランドがグランドスラムを達成したのは、4回目でしかない。
しかも最後の相手が歴史的にも因縁のある最大の相手国イングランドであり、破った場所が地元のダブリンであるのだ。これは初めてのことだ。しかも圧倒的な強さで、全ての相手から4トライ以上を上げ、ボーナスポイントもすべて取得しての快挙となった。
これは、アイルランド往年の名選手&キャプテン達、キースウッド、ブライアンオドリスコル、オガーラ、ロリーベストですら達成できていない快挙である。
ここ数年アイルランドを引っ張ってきたジョナサンセクストンは今年のW杯を最後に代表を引退することが決まっている。6ネイションでのプレーはこのゲームが最後になることをアイルランドのラグビーファン全員が解っている。W杯はフランス各地で開催さてるので、ひょっとしたらホームで見るのは最後になる可能性が高い。これまでの6ネイションの歴代得点王は、オガーラの持つ557点であった。前節で並んでいたセクストンは最終戦で軽やかに上まわりペナルティー1本コンバージョン3本を完璧に決め566点として歴代得点王に名を刻んだ。まさに劇的なフィナーレ、スワンソングである。
このところのイングランドの戦いぶりを見てもゲーム勝敗はほぼ予測通りであり、アイルランドは素晴らしいプレーをいつも通りに発揮した。驚くこともない。特に記すここともない。ジョナサンセクストンも、引退してもあとは優秀な後輩たちにまかせれば大丈夫だと言わんばかりに、満足して安心した表情で試合後のインタビューに答えていた。
それよりもこの日一番のハイライトはアビバスタジアムのアイルランドサポーターの応援である。
なんともラグビーを見る目が肥えている。一つのパス、一つのクラッシュ、一つのブレイク、一つのプレーの選択ごとに大歓声とブーイングで反応する。
その状況をわかりやすく日本のスポーツ放送に例えるならば、「高校野球で第よん試合でナイターとなって、9回裏4点差で負けていたは沖縄からのチームがヒットの連打でノーアウト満塁まで来た時からの一球ごとの反応の状況」と思っていただければ間違いない。野球なら9回裏だけなのだろうが、それが80分間切れ目なく続く、また、甲子園はせいぜい数千人だが、アビバ・スタジアムは7万人である。ラグビーには野球のようにプラスバンドや組織だった応援団や団長はいない。全て自然発生的に応援がはじまる。
イングランドの応援ソングの「スイングロー」はもう有名になったが、アイルランドの応援ソングは「フィールズオブアセンライ」である。
Low, Lie the fields of Athenry. Where once we watched the small free birds fly. Our love was on the wing. We had dreams and songs to sing. It’s so lonely ’round the fields of Athenry. アセンライの丘に寝転んで、鳥たちが飛び回るのを見たことがあったね 僕らの愛も翼にのって飛んでいけるといいね
いつもの通り自然発生的に数万の合唱となり、この日は何度も何度も繰り返し歌われた。
圧巻だったのは、海峡を渡ってきた勇気のあるイングランドファン(数千人程度かも)が負けじと「スイングロー」を歌い出すものなら、数万のアイルランドサポーターが一斉にブーイングを浴びせ、その歌声を完全に消し去ってしまったことだ。そしてその後、消し去った結果に満足をしたのか、それが今度は大歓声と拍手喝采の渦となったときであった。
これでアイルランドは世界ランク1位の座を堅守している。アイルランドの課題はいつもW杯本番にある。アイルランドにとって過去のW杯の年は、全てすばらいい成績でw杯に入るのだが、過去のW杯の本番では辛酸を嘗め、ベスト4に進んだことが無い。この結果を打破できるかだ。
アイルランドのW杯予定
9月9日 ルーマニア ボルドー
9月16日 トンガ ナント
9月23日 南アフリカ サンドニ
10月7日 スコットランド サンドニ