小雨のふるパリ北東部、サンドニにあるスタッドフランセ。
倉庫や工場もあり、パリの小洒落た街並みとは無縁の雑然とした雰囲気である。東京で言えばちょうど北千住あたりと思って良い。パリ中心部からは日比谷線や千代田線のようなメトロ、上野駅にあたるパリ北駅からも常磐線?に乗ってすぐのところになる。まるで「ここは山谷か」のような治安が悪い場所も近い。
しかしここには巨大な近代的スタジアムがある。ワールドカップ仕様に綺麗に化粧が施され、華やかな演出がされている。ここは8万人観客を裕に飲み込む。
ここでの、オールブラックスは余裕であった。
この満員のスタッド・フランセでゲームを行うのもこれで3度目となる。
3点は先制されたが、すぐにトライで切り返す。相手に攻めさせてミスを待つディフェンス。勝負どころの前半終了間際と、後半開始直後にトライをとる。
スクラムでも圧倒。連続トライでゲームを決めてしまえば、後半途中で一挙にタウケイアオ、マッケンジーらフレッシュな選手を投入する。リタリックが控えにいるもの強力だ。激戦のアイルランド戦で疲れているだろうメンバーなのに、体力をあまり使わずにこの準決勝をクリアした。イエローを出したり、らしからぬノックオンやGキックのミスもありながらもまったく余裕であった。
ウィルジョーダンも余裕の個人技であっさりハットトリック、大会トライ王争いのトップに躍り出た。
一方のアルゼンチン。ブルターニュの港町ナントや、地中海の港町マルセイユという地方でのゲームを延々とこなしてやっとこの場にたどり着いた。
アルゼンチンは疲れた。
攻めても攻めてもゴールラインが遠い。点差が非情にも刻々と離れていくと、気力で相手の背中をついていくだけで精一杯になってしまう。前半終了間際や後半すぐの失点はその気力をさえ奪い取る。スクラムモールでも劣勢となる。ガショやイサ、クレメルなど一定のカラ元気はみせた。しかし何度かは好機がおとずれてももう体が思うようについてこない。そうなるとミスが重なってその少ない好機を逃してしまう。クレービー、サンチェスらのベテランの投入もチームの活力を取り戻すにはいたらなかった。この点選手層の厚さの違いは残酷的だった。
ノートライのまま80分をすぎ、それでも一つのトライを求めて戦い続けた。最後のチャンスと思われた期待のPKが寸でのところでタッチを割らずにモウンガの手に渡り、ノーサイドとなってしまった。その終わり方も、象徴的に精神的にも疲労を上乗せるに充分な終了の形であった。
しかし、アルゼンチンには3位決定戦が残されている。相手はプール緒戦で苦杯を舐めさせられたイングランドが有力だ。イングランドが相手となれば、これは大注目の一戦だ。モチベーションが上がるだろう。もうひと頑張りしてもらいたい。