ジャパンなどが目指すラグビーでは「セイムピクチャー を見る」というのがある。例えば「このセットプレーのあとはハイパントでいくので浅く立って、落下地点にプレッシャーをかける準備をしよう。」 そのような1枚の絵だ。
オールブラックスは違う
「セイムピクチャー を常に更新し続ける。」のだ。
いわばTVのチャンネルを変えながら見る「ザッピング」だ。
ラグビーは状況が刻々と変化する、予期せぬことがおこる。その時間、その立ち位置、得点差、ファイジカルの関係などから全員が一つの絵を描く。そして次の瞬間にはまた違った絵を即座に同時に描く、15人全員が同時にこれを80分間絶え間なく数百回以上ににわたって繰り返すのだ。
例えば、自陣10mのラックから、まず「ランでなくハイパント」の絵が共有される。どこにどの高さで落とすのかは、相手陣の体系、得点差、フィジカルの差、身長の差などから一枚の絵として共有されている。
しかし次の瞬間、相手ディフェンスが被ってきたので、今度はハイパンでなく「ショートパント」だとなる。このピクチャーが共有される
そのときフォローするCTB2名はどのようなコース取りを走ればよいのかを察し感じ取り連携を取りつつそのコースを走る。一人はプレッシャーをかければもうひとりは内側をフォローする。と同時に向こう側のウィングは相手のキックの切り返しに備えで、右WTBは後退し中央付近にポジショニングを変える。
しかし、こんどは次の瞬間には相手FBがフォローワーのプレッシャーに跳ね上がったボールをノックオンをする。その瞬間またピクチャーが書き換えられる。そのボールが3人目に走っていた拾ったボールがSOの手にはいる、すると今度は残っていたフォワードの1番は同じ絵を見ており、左サイドにポジションしており、そこへSOは左足の外側で絶妙のキックパスをする。ワンバンバンドで受け取った1番のプロップだが、ゴールまではまだ20mはある。相手のWTBは必至に敗走、ここでまた次のピクチャーが共有される。「捕まるのは必至だ。」このときすでに(相手がノックオンを下地点で)一度下がっていたウィングは相手WTBとCTBの間、すでに最適の位置にフォローに入っている。
このようにキックがノックオンになりそうになった瞬間には次のキックパスの絵を共有し、一度は下がった位置からすでに全速力でフォローに走り出していたのだ。ライン際のプロップは捕まりながら内側にオフロードパスを決め、左WTBはらくらくとトライランを超えることになる。
このように一連の秒数にすればほんのの3−4秒の間だ。その間、何枚もセイムピクチャーが描き直される。これがオールブラックスの強さである。
その都度絵を描いているので間に合わない。すでに何百何千という絵が共有されていて。状況(力関係、得点差、陣形、フィジカルの程度、時間帯、フィールドの位置、モーメンタム)などからその中の同じ1枚の絵を15人全員が選択するのだろう。そしてコンマ何秒後にはすでに次の同じ絵が共有される。
これはもはやラグビーを超えた有機的存在といえる。ジャパンがこのレベルにまで到達するのは何光年もかかりそうである。