11月23日伝統の早慶戦。
今年もまた学生ラグビーの魅力あふれるゲームとなった。
両チームとも謙虚にラグビーに向き合い、真面目に、愚直なプレーが続く。
慶應がその様なプレーヤーが多いのはもう伝統だが
今年の早稲田は、キャプテン丸尾の無骨なキャラクターが反映してか
チーム全体が大人しく真面目に見えてくる。
この日フルバックに戻った河瀬、大型新人の伊藤というスーター性を持った個性ですら、この両チームの中で控えめにさえ見える。
まさに絵に描いた様な魅力溢れる学生スポーツ。
その中でただ一人、異彩を放つプレーヤーがいた。
早稲田の10番吉村絋。
彼は、久々に現れた、完全たるアンチヒーローキャラだ。
まさに狡猾さを絵にかいた様な風貌。
こけた頬につり上がった眉。窪んだ目。その眼光は鋭く光る。
ヘアースタイルも散髪したばかりと見えて個性的。
大目にサイドを刈り上げ、横に流した髪がニヒルに揺れる。
(美容院は先輩の中野君から紹介されたところという情報あり)
そして、常に半開きの口元からは、白いマウスピースに薄笑いがもれる。
(もし彼が紫のマントを着て現れたら、マーリーンの様な中世の老練な魔法使いにしか見えないだろう)
もちろんプレーも狡猾だ。
相手の嫌がる様なキックやパスやランをこれでもかと繰り出す。
ちょっとした隙間を見逃さずに、鋭い出足とステップですり抜ける。
相手の独走も執拗に追いかけ最後まで何気にトライの阻止を試みる。
ゴールキックを狙う時にもその狡猾さが見えた。
上手にレフリーの視線を避けて、
トライがタッチに近い場合は、しれっとポイントを1mほど内側にしようとダメ元ででやってみる。
ペナルティーが遠いポイントの場合には、足で器用にボールを転がし、
さらにキックティーを無造作に地面に投げて、何気に3mは前にしてしまう。
そして、イングランドのキャプテン、ファレルのごとく
さもにくらしげに、ボールとポールを睨みつけるルーティーン、
そして正格にポールとポールの間を射抜く。
今後の早明戦、それから続く大学選手権で
相手チーム贔屓達の中で、悪役になること間違いなしであろう。
この日はマンオブザマッチも受賞。
ゲームを終えて、メダルを胸にかけた時に思わず見せた歯に噛んだ素顔に
ちょっと安心した私であった。