ジャガーズとサンウルブス 好対照な明暗

15日の朝のゲームは、サンウルブス にとっては今季最終節のゲームだったが
2016年シーズンから、同時に参入した両チームの好対照な現状を、容赦無く体現したものとなってしまった。

強化のための参入?

4年前、アルゼンチン、日本とも自国の代表チームの強化のためにスーパーラグビーに参加することが必須条件とされた。スーパーラグビー、その強度とスピードは世界最高峰であるには違いななく、そこで揉まれることはW杯での好成績につながるものと信じられていた。アルゼンチンは国内リーグが盛んでなく、主力の欧州への流出が問題になっていた。一方のJAPANは15年W杯ではエディ流のハードワークで結果を出したにも関わらず、振り返ってみれば南半球や欧州など、世界へ単身で行こうという人材にかけていてた。国内の選手の世界的視野の狭さはなんともし難く、特に有望な若手にその経験が足りないので、手っ取り早く世界を経験させるにはスーパーラグビーは必須のものに違いなかった。

ただし、その参入時にあたってはサンウルブス は一悶着があって、協会内や選手会も一枚岩とは行かなかった。HCもハメット、ジョセフ、トニーとコロコロ変わる状況。

さらに、実際に参入してみると、移動など選手の負担も大きく、激しいコンタクトの連続など選手の体調に影響の出る心配も起こってきてしまった。

そんな状況もあってか、今節になって、JAPANの指揮官のジョセフは、あっさりとサンウルブス への代表選手の投入を諦め、ウルフパック なる真のジャパン強化の新チームを結成。サンウルブス は当落線上の選手のアピールの場と、ゲーム間隔が空き、ゲーム感覚が必要な選手の限定的なウォーミングアップの場としての使用にしてしまった。あれだけ協会を揺るがして、大勢の人が動き、大忙しでスーパーラグビーに参入した経緯があるにも関わらずである。日本人の監督ならば絶対にそんなことはできない。それは忖度ではない。義理人情、「おかげさまの文化」、日本人ならではの「和の精神」。もしもそこまでして最終的に日本代表が結果を残さなかったら、日本人ならそれこそ切腹ものである。ジョセフも日本人なみの義理人情に厚い親分肌であるように思える。ジョセフにも、今回の判断はよほどの覚悟があったには違いない。

サンウルブスウルフパック では、大まかな戦略は同じでも、細かいコミュニケーションの部分は全く違っていて、選手は短期間にアジャストするのが難しい状況が続いた。その修正に時間をかけても3−4日で遠征になり、強化などとは言ってられない。そしてまた3−4日後にには、新しい選手が送り込まれる状態。例えばスクラムもその組み方はサンウルブス とウルフバックでは全く番う。バックスのサインも違うし、ディフェンスの決め事も違っている状態。毎回同じように失点を繰り返す状況がつづく。合わせるという余分な作業時間に多くの時間をかけては、それこそ強化どころではない。なぜ同じにしようとしなかたか、できなかったのか、早々と捨ててしまったのかは不明。

このように全くナショナルチームの強化に繋がらなくなったサンウルブス である。

ただし、幸か不幸か、その間に協会の人事がガラリとかわったので、この結果を誰がどう責任を取るのかが曖昧になってしまう状況となった。

 

人材の育成?

日本のサンウルブス は、世界唯一の ダイバーシティ 多国籍軍となっている。日本代表の強化のためと言っても、主力やキャプテンは全く日本代表の資格が得られない可能性があっても次々に人選された。またそれでも主力に怪我が出ると、臆面もなく欧州からも人材を集め多国籍がさらに多国籍化を進めさせた。しかし、堀江や流もキャプテンを務めたが、最後の二人の外国籍のキャプテンは、二人とも今季は早々にピッチを後にし、最後まで戻ってこれなかった。

今季のサンウルブス は選手の育成ではなく、当落線上の選手のトライアウトの場になってしまったが、当落線上だった山中とそれにジャパンには必要とされるトンプソンがJAPANに引き上げられたのは、今のところ一つの功績ではある。

一方のジャガーズは、(アルゼンチン代表のプーマスのもそうなのだが)、アルゼンチン国籍で占められている。選手だけでなく、スタッフ、コーチも全てドメスティックである。その上、若手とベテランをうまくローテーションさせて、移動など過酷なスケジュールのスーパーラグビーを乗り切ってみせた。唯一南米大陸のホームであるにもである。スタップもコーチも成長できたに違いない。

スーパーラグビーでの実績? 

結果は推して知るべしであった。順調に成果をあげたジャガーズに対し、4年目で失速したサンウルブス という明暗がはっきり分かれた。

サンウルブス 1年目 1勝18位最下位 2年目2勝17位 3年目3勝 4年目2勝 最下位
ジャガーズ 1年目4勝13位 2年目7勝11位 3年目9位プレーオフ進出、4年目南アカンファレンス優勝

さらに2021年からはサンウルブス はスーパーラグビーから除外されることも、まるで元から決まっていたかのようにあっさりと決定された。

16節のブエノスアイレスでの最終戦が象徴的となった
なんとこの好対照のチームが今期初めて、しかも最終節で対戦するといった状況である。

このゲーム15名のうち、サンウルブス のW杯スコッドは2名のみ、ジャガーズのW杯スコッドは12名であり、しかも若手とベテランもうまく配置している。
ゲームは前半はサンウルブス もアタックに意地を見せてはいたが、外国籍メンバーがシンビンとなりゲームが壊れてしまう。さらに外国籍のフッカーに相次いで怪我人が出てスクラムが組めなくなり ノーコンテスト となる。ノーコンテストなら一人減らさねばならないルールなので、シンビンから戻っても十四人で残りを戦わなければならないという状況。

数名のジャパンへの復帰を目指したメンバーには、最後のアピールの場として用意されたゲームも、その舞台は泡のごとくなくなってしまい意味のないものになった。ジャガーズにとっても ファイナルステージ に向けての最終調整の場として勢いをつけて次節を向けたかったが、拍子抜けで、全くその意図を持たなかったばかりでなく、全く逆効果になりかねないゲームになってしまった。

しかもその場には、JAPANの指揮官もサンウルブス の指揮官もすでにいなかった。サンウルブス の指揮官は、来季は古巣のHCに収まることも早々と決まっっていた。ただただ虚しさだけが残るだけだった。

サンウルブス のすったもんだを象徴するかのようなゲーム。存在さえも否定されかねないゲームで終わってしまった。

整理すると下記のように好対照。

参入時  一枚岩              すったもんだ
お金   SANZARRに協会から多額の出資  協会は1円も出資せず
人材   選手スタップも全員国産      完全な多国籍
内容   若手の育成           トライアウトの道具
結果   4年目でカンファレンス優勝    ほとんど毎年最下位
顛末   14チームの中核へ       21年から除外

最終評価は?

上記のように誰の目にも明らかな状況にも関わらず、それでもなお、まだ最終評価は出せない。

なぜなら、今年は参入当初の最大の目的のW杯があるからである。

ただその前にもちろんジャガーズはこれからホームで迎えるファイナルステージがあり、その後の ラグビーチャンピオンシップ が備えている。

また、強くゲームにただ勝つだけがラグビーの評価ではない。ラグビーの文化としての勝利者、ラグビーの現象としての意味、それが評価されるのは9月からのW杯の場となる。

多国籍軍という新たな組織を作り、しかもそれをほぼ単一民族の国である日本で作り出したのもサンウルブス であり、多国籍軍をホームチームをして受け入れたのもの日本である。また、ひいき目でなく他のスーパーラグビーのどのスタジアムよりも秩父宮は盛り上がっていた。さらにサンウルブス のファンの熱心さは世界一のように思えるし、独自の応援文化も作り上げたのはサンウルブス である。今まで遠い存在だった国の選手もサンウルブス として身近な存在としてファンには受け入れられている。事実、サンウルブス の選手は、誰もが個性的で魅力に溢れている。

W杯の成功というものが、どういう尺度で測られるかもまだ実はわからない。サンウルブズの4年の活動が、どんな形でW杯の成功につながるかを、「ラグビー現象」としては見届けなかればならない。

 

 

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