3位決定戦 アルゼンチンVSイングランド  観戦記

9月8日に開幕したワールドカップもこのゲームを含めてあと2試合となった。
開幕のころは、毎日30度を超えるような猛暑で、短パンにサンダル、半袖ジャージ一枚で夜もOKだった。10月の声を聞いても南仏のニースはもちろん北部のサン・マロですらビーチは海水浴を楽しむ人で賑わっていた。
しかし、この日のサンドニは小雨も降り、ダウンジャケットを着ても肌寒いようだ。季節の移り変りは急速すぎる。ビールを片手に声をからした熱狂のプール戦など、遠い過去にも思える。

思い起こせば大会前のあらゆる予測を遥かに超えて、語り継ぐべき多くのことが次々に巻き起こった大会であった。それらの鮮明な記憶は確かにあるはずなのだが、それがもはや断片となり、溢れ帰り、取り散らかって混沌としてまだ整理もつかないままだ。

3位決定戦に臨んだこの2チームは開幕の翌々日9月10日に対戦している。このゲームも語り継がえるべきエポックメイキングがゲームであった。14人(一時は13人)となったなにかとお騒がせのイングランドが、フォードの神がかりのDG連発でノートライでアルゼンチンを退けたのだった。

両チームはその後も、波乱万丈があり、僅差のゲームを乗り越え、準決勝にまで進んだ。しかしそこで南アフリカ、ニュージーランドという大きな壁を破ることは叶わず、両チームともノートライで破れこの場に進んだ。

 

まずはトムカリーが、一人だけスタジアムのスマポの明かりが点滅する中ピッチに出てきた。これで50キャップとなったのだ。まだ若い彼は丹精で大人しそうな顔立ちとは裏腹になんともお騒がせだ。緒戦でレッドカードをもらったり、先週からは南アのムモナンビと揉めるなどしている。2019年の日本大会ではどうしても一人「猫カフェ」に行きたいとゴネたこともあった。

ついで登場した両チームだが、アルゼンチンは例のイケてない「大統領候補者」のタスキデザインのセカンドジャージだ。「残念!」。このジャージからは、10月8日のナントでのジャパン戦の記憶、躍動した11番カレーラス弟の姿が蘇ってくる。

そしてアルゼンチン国歌となる。9月10日のときは、子供達の元気のない調子ぱずれの歌でロスプーマスは拍子抜けして、いつもの士気の高揚が阻害されたことが思い出された。今回はきちんとした長い伴奏もあり、ハーモニーも力強かった。「オーフレモセズロリマモリ!!」前キャプテンクレービーも顔を斜め45度上に向け大声で歌いきり、自らを、チーム全体を鼓舞することができた。ロスプーマスにはリベンジというモチベーションがある。

一方のイングランドのモチベーションは難しかったと思う。Jマーラーやシンクラー、コートニーロウズ、Eデイリーがベンチにもいないのは、決してフィジカル面の問題だけではないように思える。

3位決定戦という性質上勝ち負けに拘らない、自由でボールのよく動くラグビーが見られるかとも期待した。マーカススミスがFBにいることも期待に輪をかけるものだった。しかし、ゲームが開始されるとそれも全く外れてしまった。

イングランドはSHがベテランのヤングに代わっいても、まったく変わらない硬い戦い方だった。自陣から徹底してキックをあげ、相手のミスを誘う。ディフェンスでプレッシャーを与える。そして反則を得てPGで3点づつ得点を重ねるというものだ。先週の南ア戦の記憶と映像がオーバーラップする。非情につまらないのだが、スリリングでもある。笛がなるたびにレフリーの手がどちらに上がるのかにハラハラする。ファレルがDGを狙うのではないかとハラハラする。

対するアルゼンチンも最初はそんなキック合戦に付き合っていたが、相手陣に入るとお得意の連続攻撃が炸裂する。イングランドも前に出るディフェンスができなくなる。そしてすこしでも穴を見つけれは一気にゴール前に攻め込む。SOカレーラス兄がその穴を突く個人技でゴール下にトライ。3点差にせまる、11番カレーラス弟もライン際をたくみに突破し、マーカススミスを体当たりで吹っ飛ばす。
アルゼンチンが苦労してトライをとり逆転。直後のキックオフでTダンのチャージが決まり、苦労せずして、イングランドは再逆転となる。

これからは、反則をしたら終わりの、最後までハラハラ・ドキドキなゲーム展開が続く。メンバー交代でスクラムの力関係はアルゼンチンに傾いたように思えた。クレービーやサンチェンズなどベテランの投入でアルゼンチンには落ち着くようにも見えた。しかし、同点をねらったサンチェスの左ライン際からのPGは無情にも左にそれてしまう。
時間は刻々と勝ていく。それが真綿で首を締めるようにアルゼンチンにのしかかる。最後のスクラム。ここで反則の笛。レフリーの手はアルゼンチンだった。

できれば、同点となり延長戦を見てみたかった。このまま終わってしまうのは非情に残念である。このゲームで国際マッチから身を引く選手の名前も多い。少しでも長い時間このピッチで躍動していてほしかった。

そういった個人への思い入れもあるが、このチームはチームとして大会を通じて成長した。そのことは大会として非情に喜ばしいことに思える。だからこそ、延長線までやってほしかった。

イングランドとアルゼンチン。前評判は良くなかった。イングランドは大会前にどん底を味わった。アルゼンチンは開幕戦で、そのイングランドからどん底を見せられた。そしてそんな開幕の一戦がら、この大会を通じて両チームは方向を見さだめ変化していく。その方向は全く違った方向ではあったが、確実に成長し続けた。アルゼンチンはこれまでと違って反則が非情に少なくなった。相手陣に入ってからチャンスでの執拗なアタックは気持ちよかった。一方のイングランドは勝ちにこだわり、徹底してキックを上げ続けた。私個人としてこのラグビーはあまり歓迎しないが、共に方向を見定めてそれを貫く姿勢そのものに好感がもてる。

このゲームでは黙々とタックルをつづけた久々登場のアンダーヒルは素晴らしかった。

ゲームが終わればノーサイド、イングランドの面々がブロンズメダルをどう扱うかに注目が集まる。2019年の横浜のシルバーメダルは、HCのエディさんを始め、全員が恥じ入るように、メダルの価値を貶めるかのように、首から外しポケットにしまい込み、各方面から避難をあびていたからである。今回はそんな素振りはみせず、全員が大人しく首に下げていた。ひとまず安心。しかしHCのボーズウィックだけは、恩師のエディさんがそうしていたように、首から下げるのを拒否しポケットにしまい込んでしまった。
もしかしたら、前日にミーティングで特別な司令が出されたのかもしれない。「みんなは首からはずすなよ、すべてオレが受けとめるからな」、そうでなくともボーズウィックは何らかのメッセージを出したかったのだろう。

アルゼンチン、イングランド。日本と同じプールを戦った相手。選手の名前や特徴など日本でもかなり浸透し、親近感をもてたのではないだろうか。ジャパンとの差はわずかである。ちょっとの差でジャパンもこのピッチでこの景色を見られたと思う。その差は確かに少しであるが、確実に大きくもある。ジャパンの夢はさらに膨らむ。そのインランドは来年6月来日する。その夢は確実にまだ先へと続いている。

最後に、会場に定番の「ワールオブユニオン」が流された。今回の大会では、これまでこの曲の採用が見送られたとの報道があったのだが、このような場面では、最後はやっぱり「ワールドオブユニオン」でししかない。良かった。涙がでる。

 

「勝っても負けても引き分けでも、全員が勝者だ。
世界は一つに繋がって、決して離れない。

It’s the world in union
The world as one
As we climb to reach our destiny
A new age has begun

それは世界の団結
一つとなる世界
運命をも上り詰める
新しい時代は始まってる」

世界で紛争が起きている今だからこそ、ラグビーから平和のメッセージを届けたい。プレー一つ声をからし、巡り合い、グラスを傾け、語り合い、違いを認めてあい、わかり合う、称え合う、共に肩をくんで同じ歌を歌う。ワールドカップにこそ平和の姿がある。

 

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