私自身40年ラグビー観戦歴は40年以上になる。それでも初めて見るような新鮮な驚きに溢れる前半だった。両チームとも柔軟な発想で考え抜かれた全く新しい戦術を次から次へ惜しげもなく披露したのだ。IT技術、先端医療、行動科学など先端の科学や知性の争いが繰り広げられた。
まずは南アフリカはメンバー編成で仕掛けた。南アは通常8名の控えに6人のFW2名のバックス(今大会控えバックス1人ということもあったしSH4人ということもあった)という布陣だがたのチーム同様この日は3名のBKを導入、その3名はでクラーク、ポラード、ルルーといった安定感のあるベテラン3名、しかもスナイマン、クワッガスミスも控えに座っている。完全に接戦で後半勝負、前半リードして後半で閉める作戦であることは見えている。
フランスの方は恐るべき回復力でデュポンがヘッドキャップ姿で復帰した。これはフランス医学会最先端医療の大勝利だ。
そしてそのフランスは、デュポンの復帰に合わせて見たこともない目の覚めるような早いパス回しを準備していた。
この夏日本でも異常気象が続き、一日だけで7月1ヶ月分の降水量を上回るとか、がニュースになる。この日のフランスのパスの多さはそんなニュースの一節を思い浮かべてしまった。
前半の一部だけで、通常の1試合分を記録したともえる多さと速さ。まさしくパスの嵐、パスの線状降水帯だ。ボールを確保するたびにその集中豪雨が一定期間はお決まりで続く。パスの速さだけでなく、とってから放つまでの時間、相手選択の時間、プレイクダウンへ働きかけの速さ、ボールの出の速さなど国内の通常のラグビーの倍以上の速さに思える。ジャパンの斎藤も早いがそれよりもすごく速く思える。相当練習していたはずだ。この場になるまで隠していたのか。
そうして苦労してフランスが理にかなった連続攻撃で南アゴールにせまるなど知性と磨き上げられたスキルのフランスラグビーに対して、キックをうまく使って理にかなった反撃を見せる南アフリカ。それ追いかけさせるのがエツベスなど身長の高い選手で、アレンデ、コルビなど小柄な選手には足元のにこぼれ球を拾わせる、これも完全に用意した作戦である。そのプランもうまくハマり、アレンデ、コルビがスピードを活かしてゴールを陥れる。
コルビのトライの前トマラモスのGKを阻止したプレーも驚きだ。足が速いとこれも簡単に間に合うのか、そんな計算がシミュレーション上成り立っていたのか?ゴールラインからは22以上離れていたのに猛ダッシュでキックチャージして2点を阻止してしまった。
フランスもモールからのはやいブラインドへの展開なども準備したプランであった。モールにはいらずライン際に待っている1番と2番でフラッグ地点に合計3トライをもぎ取ってしまった。難しい位置のキックをトマラモスがきっかり決める(一度はコルビに阻止されるが)。素晴らしいキッカーがいるのを想定した総合的効果的プレーだ。
南アはフランスの久々のハイパントに対して22m内側でマークし、その場のスクラムを選択したプレーも全く見たことがなかった。FKで蹴っても相手ボールラインアウトになるからである。スクラムでPKを貰えばタッチにければ、マイボールのラインアウトで相手陣から責められる。フランスの切り返しの怖さを準備したプレーだった。作戦通りスクラムでPKを得るということをもやってのけた、しかし途中までうまく行った作戦は、その後のキックに失敗し逆襲を受けてしまった。
このように。両チームとも今までのラグビーでは見たこのもなかった考え抜かれた新戦法をこの場でおしげもなく披露する。しかしそれに対する対抗策をしっかり準備して、対応している。負けたら終わりのノックアウトステージ。決勝戦以外であっても、どこかであたるに違いないこの対戦カードを、随分まえから想定し準備していたに違いない。
楕円球も妙もでて、南アフリカが先行してフランスが追いつく展開で3本づつ、フランスは22−19で折り返す。ラグビーの試合時間って「こんなにも短かったか」、「こんなにも楽しかったものか」と思わせる内容だった。
後半になると一転して緊張した展開が続く。ペナルティトライでフランスが7点をとり、逆転をはかる。
ここで南アは準備した控えに回ったベテラン勢の挿入プランが実行される。想定はリードした上での投入だったはずであるが、そうも言っていられない、プランBの発動だ。フワッガスミスが相手にからみ、ポラードは確実にPGを決めて逆転視点さ広ろげる。これはこんどは理屈ではない。人のもつ力のすごさは、その存在だけでチーム全体に影響をおよぼす。
フランスは3点を取って1点差に迫ってか残り時間で逆転のPGかDGで処理を狙い作戦だったが、DG圏内相手陣10mでボールを失い、ゲームセットとなった。
多くの部分が「インテリジェンス」の戦いであった。せも最後はベテラン勢の人の力というものが決め手になった。
各国の軍事顧問や防衛の情報期間、分析部門を「インテリジェンス」という。実際に各地が戦争状態にある今日、ウクライナやロシア、米国、イスラエルなどの「インテリジェンス」が戦況をきめる大きな役割を果たしている。毎日の悲惨な報道で戦争のやり方さえ変わったしまった現実は憂うばかりである。彼らは人をコマのように扱い戦況を有利にすべき情報作戦、秘密作戦、心理作戦など非合法な戦法をなりふり構わず立案し実行する。こんな部門など世の中に存在してはいけない。消え去らせなければならない。
ラグビーであってよかった。
このゲームはラグビーでのかなり高度の高い「インテリジェンス」の戦いを見たのだと思う。その部門は相当な年もまえから相手を想定しての膨大な情報分析をして、その上知性を働かせ、シミュレーションをおこない、新しい戦法の可能性も追求したに違いない。思いもよらない戦法を打ち出してきたのは、ひょっとしたらAIなども導入しているかもしれない。ラグビーの戦法のあり方がまたひとつ上のレベルに上がったのだといって過言ではない。これは、新しい知的ラグビーの幕開けだ。これまでデータはあっても採用することはなかったもしれない。
このゲームはラグビーというより多くの部分が「インテリジェンス」の戦いであった。しかし、「インテリジェンス」でははく、「人の力」が最後の勝敗をわけたと思う。フランスは自国大会で念願の初優勝はならなかった。
しかし、ラグビーの面白さ魅力を十分に見せてくれた。ラグビーを楽しんだこと、ラグビーの魅力をしらしめさせたこと、ワールドカップで海外から多くの人が集まり交流ができたこと。様々なことで「大勝利」をおさめたといって過言ではない。