ラグビーと音楽 その4 アドリフとフレア

最近のラグビーはディフェンスのシステムがかなり高度なものに進化してしまっている。ラグビーピッチの横幅は70mあるが、ここにディフェンス側が横一列にラインをしいてしまって、ギャップを作らせない。いわゆるロックアウト。ブレイクダウンにも人をかけずに、素早く立ち上がったって列にならぶ、リロードである。セットプレーのディフェンスと同じ、ディフェンスラインがあっという間に揃ってしまっている。ストラクチャーな状態を崩さない。

こうなってしまうと、いくらアタックがフェイズを重ねても、例えゲインラインは少しだけ越せたにしてなかなかトライラインまで届かない。

この様なストラクチャーな状態からのトライを取るのは難しくなってきている。そのため、ゲームの勝敗はこれとは逆の状態、いわゆるアンストラクチャーな状態でのプレーの選択、実行力の差勝負になってきている。

音楽でいえば譜面がない状態での演奏、すなわち、「即興演奏=アドリフ」の優劣の勝負である。アドリフは、ジャズではお馴染みの用語。演奏者は自分の感じるままに思うがままに音を選びそれを奏でる。誰かがリードを取ると他のメンバーは伴奏に回り、そして時折合いの手をいれる。そうするとリードを取る演奏者は、それに呼応するかの様にますますその演奏を高みに持っていける。演奏者全員が音楽的感性や、アイデア、演奏力を持っていないと成り立たない。個性と個性、アイデアとアイデアの相乗効果で演奏はより素晴らしいものになっていく。

80年台初頭にマイルスグループの演奏を間近で観たことがある。大雨の後の読売ランドのステージであった。若手中心のメンバーであったが、そのインタープレイには鬼気迫るものがあった。

ラグビーでは、この様なアドリフのプレーを「フレア」という。フレアとは閃きのことを意味する。あるプレーヤーがアンストラクチャーな状態での咄嗟のヒラメキでプレーを選択する。そして次から次に湧き出る様にサポートプレーヤーが現れ、阿吽の呼吸でボールが手に手に渡り、その軌跡は芸時術的な文様を描いて、最後にはトライラインを超える。

アンストラクチャーな状態はノックオンやミス、PGを得た直後などやターンオーバーの瞬間に訪れる。アドリフの達人はその時を見逃さない。この時ボールを持った一人のフレアでのプレーに見えるが、実はボールを持たないチームの多くのメンバーも同時にフレアを感じてすぐに行動にでている。実はこれができないと、一人の単独のプレーになってしまい。そのプレーがトライラインまで行けない限りは、ディフェンスの餌食になってしまうからである。チーム全員がチャンスを感じて同じ絵を見ていること(セイムピクチャー)で実現できる。

70年代のウェールズ、80年代のフランス、最近のオールブラックス、NZ南島のハイランダーズ、日本のパナソニックはこのアンストラクチャーからのトライが多い。

70年台のウェールズはまさにアイデアあふれる才能集団であった。ガレスエドワーズに、バリー・ジョン、フィル・ベネット、J・P・R・ウィリアムズなど、全員がアイデアだけでなく、それを表現できるスキルもあり、チームとしての呼吸がまさに即興演奏のごとくであった。

80年台フランスのフォローが湧き出る様なラグビーは、まるでグラスの中で次から次げ弾ける泡の様であり、優雅で華やかなので、「シャンパンラグビー」と呼ばれたが、これは日本だけで、国際的は「フレンチプレア」と呼ぶのが正しい。今のフランス代表のSHデュポンはフレアの塊であろう。自らも閃きで1発でトライラインを超えることも多いが、それよりもチームメンバーのフレアのフォローのフレアが素晴らしい。若手のSO、ヌタマックとのコンビも秀悦である。シャンパンラグビー復活の機運再来か。

 

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