アイルランドラグビーと音楽 その2

アイルランドの国歌 「ソルジャーソング」と「アイルランドコール』

https://youtu.be/hQa5KCvJT7A

何故2曲あるかということですが、まず、アイルランドの歴史をすこし勉強したいと思います。

ラグビーの統一チーム

アイルランド小さな島国ですが、国は北と南に分かれています。

島の南の大半はアイルランド共和国で、北東の一部アルスターの6県はイギリスの一部となっています。

しかし、アイルランドラグビーの代表は分裂前からずっと一つのままです。(ちなみにサッカーの代表はアイルランド代表と、北アイルランド代表の2つに分かれています)。国は分裂してもチームは一つのままというのが非常にラグビー現象的です。

イングランドのクロムウェルによるアイルランド侵攻でアイルランドは徹底的に破壊されました。(アイルランドではグズる子供を叱りつけるのに「クロムウェルが来るぞ」というと泣き止むのこと)。宗教だけなく、言葉や文化も否定されます。その後もイングランドの圧政に苦しんでいました。カソリックが多いという宗教的問題もあります。その後数世紀にわたり何度も独立の蜂起がありましたが、そのたびに失敗しています

 

本日紹介する曲、「ソルジャー゙ソング」はこうした圧政の中で1907年から歌われ出したイングランドへの抵抗のための歌でした。長年の思いはついに1916年のダブリン中央郵便局でのイースター蜂起に端を発し拡大、独立戦争となります。

「ソルジャーソング」と同様にイングランドへの対抗のシンボルとなったのが、アイルランド独自の競技「ゲーリックフットボール」と「ハーリング」です。

ゲーリックフットボールはラグビーに似たボールゲームで、ハーリングはホッケーに似ています。

血の日曜日事件

独立戦争の最中、ゲーリックフットボールの聖地「クロークパーク」でスポーツ史上最悪の悲しい出来事が起こります。

11月のこと、クロークパークでいつものようにゲーリックフットボールの試合が行われていました、観客は5000人ほどに膨れ上がっていたといいます。なんと、試合の最中なんの前触れもなくグランドにイングランド軍の武装した戦車が数台乗り込んできます。あっけにとられ静まり返える観客。立ち尽くす両軍のプレーヤー、一人の選手は苦笑し試しに手に持っていたボールを戦車の砲台の頭越しに軽く蹴り返して見せます。ボールは向こう側におち数度バウンドして止まりました。5000人の観客は静寂のままです。そこで突然、銃声がこだまします、あろうことかグランド中央に陣を取った数台の戦車から観客席にむけ無差別攻撃がなされたのです。選手を含め14名の死傷者が出たというおぞましい事件です。(以上は映画「マイケルコリンズ」の描写です。いささか誇張もあるようですが、イングランド軍が試合中にグランドに乗りこんで無差別射撃をおこない14名の死傷者が出たのは事実です)

 

その後、内戦の結果に、1922年の愛英条約で、南の大部分は独立することが叶いました。しかしプロテスタントの多い北東の一部は英国に残ることになったのです。

その後も前途の通りアイルランドのラグビーはその後も統一チームとして活躍し、イングランドを何度も倒すほどに強くなってきました。

ただし、アイルランドには和平は戻らず、IRAによるテロや英国軍の武力行使という泥沼の武力衝突は続きます。

ゲーリックフットボールとの和解

市民の中にはゲーリックフットボールこそがフットボールで英国発祥のラグビーフットボールのことを良く思わない人も大勢いました。ラグビーは何十年も間ちょっと郊外のランズダウンロード競技場でしか行われませんでした。昔グランドのそばにランズダウンロードという駅があり、スタジアムの拡張で、観客席真下に鉄道の駅があるというとても珍しい競技場でした。一方のゲーリックフットボールの聖地「クロークパーク」は最新鋭で8万人も入る立派な競技場になっていますが、そこでのラグビーのゲームなど認められるわけがありません。

 

やっと和平が結ばれたのは1998年のことです。

 

人気の出てきたラグビーですがまた問題が起こります、ラウンズダウン競技場の手狭さと老朽化の問題です。

そこで、ゲーリックフットボール協会がとても素敵な計らいをしてくれます。2007年のことラグビー協会に 聖地クロークパークを快く貸し与えてくれたのです。まずはフランスとのテストマッチが実現します。また翌週にはなんどイングランドとのテストマッチも行われました。イングランドとのゲームもゲームは激しかったけれど始まる前も終わった後も非常に友好的に執り行われました。(今やライブの殿堂となった武道館ですが、1964年、ビートルズが初めて公演したことに似てますね。当時のスポーツ界のドンの一人正力松太郎はひどく反対したとのことです)

アイルランドには平和が訪れたとういう事実の象徴でした,

 

クロークパークでの国歌斉唱の様子がアップされています。 はじめにゴッドセイブザクイーン、続きソルジャーソングとアイルランドコールが歌われます

https://youtu.be/_6_UsZtHiXU

再び2曲の国歌

話は二つの国歌の話に戻ります。

こんな背景がありますから抵抗の象徴の「ソルジャーソング」は、北の人は国歌としてみとめていません。現在のアイルランド代表のキャプテンのフッカー、ローリー・ベストは北アイルランド出身なのでキャプテンなのにやはり歌いません。

そこで誰もが唄える歌「アイルランドコール」が新しく作られました。

今はアウェイのゲームでは「アイルランドコール」だけが演奏、斉唱されます。とても勇ましく闘争心にあふれるアイルランドラグビーにはぴったりです。

 

 

そんなわけで、日本でのワールドカップでも残念ながら「アイルランドコール」しか歌われません歴史の重みのある「ソルジャーソング」を生で聞きたいならアイルランドはダブリンの「アビバスタジアム」まで行くしかありません。

 

今でも北と南に国家は分断されたままです。英国のEU離脱でまたも島内の国境線が強化されようとしている状況でとても心配です。統一チームであるアイルランドラグビーを応援するならこんな歴史を理解しているとより応援のし甲斐があると思います。

 

ただしここで私から大事な忠告があります。スタジアムでアイルランドの応援団と仲良しになると、大抵は一緒に飲みにいくということになりますが、奴らのペースに乗って飲みすぎることのないようにしましょう。奴らの肝臓は最強です。勝っても負けても店のビールが無くなるまで飲み続けます。店の方もできれば当日はビールを大量に仕入れておくことをお勧めします。

アイルランドのビールといえばギネスですが、お酒の話はまた別の機会にします。

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