高校ラグビー花園 一回戦 公立高校のことなど

1,今年の公立高校の参加校

今年の大会の公立の出場校の数は、参加校51校の内、12校である。

北海道道立 遠軽高等学校 8年ぶり11回
岩手県立 黒沢尻工業高等学校 4年ぶり32回
秋田県立 秋田工業高等学校 4大会連続71回目
山形県立 山形中央高等学校 2年ぶり29回目
長野県立 飯田OIDE長姫高等学校 57年ぶり2回目
福井県立 若狭東+敦賀工業高等学校 合同のため初出場のカウント
鳥取県立 倉吉東高等学校 7回連続15回目
徳島県立 城東高等学校 7大会連続 17回目
香川県立 高松北高等学校 2年連続15回目
佐賀県立 佐賀工業高等学校 42回連続 52回目 Aシード
宮崎県立 高鍋高等学校 13大会連続31回目
沖縄県立 名護高等学校 2年連続21回目

以上の12チーム。中には名門秋田工業や黒沢尻工業の名もある。
佐賀工業はAシードとなり、30日からの出場だが、残りの11校はすべて27日と28日の一回戦に出場した。

そのほとんどのチームはそれぞれ部員不足などの悩みと格闘しながら、その難題を乗り越え花園に乗り込んできた。その影にはそれぞれに感慨深いドラマがある。

今年から合同チームでの花園出場が認められることになった。

福井県からの若狭東はかつての花園常連ではあったが、部員不足のため、春から敦賀工業との合同チームで活動。夏には新入部員もありメンバーは揃ったが、このメンバーでやりたいとの希望で若狭東・敦賀工業という合同チームでの参加になった。そのため、若狭東の連続出場記録は途絶え、初出場扱いとなった。
この日27日の第三グランドは、留学生をそろえる東京の私立目黒学院に7−62とパワーで屈し敗退した。それでもこの一つのゲームはこれまでとは違った価値のあるゲームとなった。

続いてのゲームでは、部員登録15人の県立高松北高校が15回目の出場でついに花園初勝利をとげた。スコアは48−3。相手はやはり公立の鳥取県立倉吉東。香川県勢としても歴史的な2勝目である。昨年度は大分東明に130−0で敗退しており、これは大躍進である。高松北には「せとうち留学」という制度があり、大阪など県外からの6名をいれることができている。それでも部員数は11名であった、野球部終了後ラグビーに転入した4名を入れてやっと15名登録ができた。この日はその野球部からの転入生の一人が怪我をし。14名になりながらも、初勝利を刻むことができた。しかし、怪我の代償は大きかった。30日の中部大春日丘戦は人数が足りなく無念の棄権&不戦敗となってしまった。

 

飯田OIDE長姫は平成25年に合併によって校名が変わって57年ぶりの出場となった。前回は1967年の第46回大会。長年の間、県立岡谷工業や県立飯田高校に出場を阻まれてきた。5年前(2018年)などは長野大会には合同チームで参加を余儀なくされたこともある。独自の部員獲得活動が功をそうし、徐々に力をつけてきた。日替わりで主将を交代するという独自のチーム運営で快挙を成し遂げた。しかしこの28日は山口からの初出場校の私立高川学園に0−75と一方的になってしまった。

つづいての第二グランドは公立高校同士のゲームになった、徳島の県立城東高校と北海道の道立遠軽高校。両チームとも花園ではもう常連校の仲間入りである。しかし遠軽は男子部員が21名しかいない。このゲームでは城東は45−0と圧倒し、30日は正月をかけて同じく公立高校の沖縄名護高校と対戦する。

そのあと出場した山形中央高校も部員数は21名しかいない。しかし内4名がマネージャーで登録人数は17名しかいない。滋賀の光泉カトリックに10−88と大差で屈した。

こうして、今年の大会の公立校12高校のうち9校は2日間で姿を消すことになってしまった。

かつては公立高校が多く出場していた時代があった。

 

2,過去の公立高校参加数について

14年前の89回大会を見てみよう。次の28校が公立高校である。

北見北斗、青織北、黒沢尻工業、秋田工業、山形中央、磐城
深谷、日川、飯田、新潟工業、若狭東、西陵、岐阜工業、朝明
御所実業、和歌山工業、津山工業、倉吉総合産業、萩商工、貞光工業、坂出工業、三島、佐賀工業、大分舞鶴、荒尾、高鍋、名護

熊本の県立荒尾高校では、2年生のが先発出場している。

 

そして13年前の90回大会ではなんと30校が公立学校であった。

遠軽、青森工業、黒沢尻工業、秋田工業、山形中央、磐城
深谷、日川、岡谷工業、新潟工業、富山工業、若狭、岐阜工業、旭野
八幡工業、伏見工業、御所実業、和歌山工業、倉敷工業、倉吉創業産業
萩商工、貞光工業、高松北、北条、福岡、佐賀工業、長崎北陽台、荒尾、日向、名護

その中で、埼玉県立深谷高校の山沢拓也は1年生で出場、福岡高校の福岡堅樹は3年生で先発、伏見工業の松田力也は1年生でフルバックで出場している。流は荒尾高校のキャプテンとして連続出場である。

 

 

3,近年の私立校優勢の傾向

各県とも県外から部員を確保し、予算も豊富にあり、スタッフも揃えられる私立高校が優勢になる傾向は止まらない。全国大会に出場することで、生徒も集まり、学校経営も良くなる。利益が出ないと学校経営は続かない。いまは資本主義経済なのだから仕方がない。

今年、山梨では、県立日川高校は私立の山梨学園にやぶれついに連続出場記録は17回で止まった。その市立山梨学園は初出場。山口県でも、県立大津緑洋を破って私立の高川学園が初出場を果たした。
栃木では、私立国学院栃木が連続出場。神奈川でも桐蔭学園が定位置(昨年は東海大相模に足元をすくわれたが)

スクールウォーズのモデルになった府立伏見工業は、2016年に合併で校名が変更になり、定時制のみが存続していたが、2024年4月には完全に閉校になる。京都成章が連続出場がつづいている、

大阪ではジャパンでおなじみの堀江選手の母校 府立島本高校も昨年から部員不足で廃部となっており、来年にはやはり廃校が決まっている。

ジャパンでは稲垣選手の母校県立新潟工業は2004年の84回大会から17年連続の出場を果たしていたが、ここ3年は、市立の開始国際、北越高校に阻まれている。

 

 

4,「大会名」が示すもの

この花園のラグビーの全国大会の正式名称は「第103回全国高等学校ラグビー大会」である。いわゆる選手権大会ではない。これはこのプログでは何度も書かせてもらっているが、甲子園の野球や、バスケット、同時期に行われる高校サッカーとはちがって、大会名に選手権の文字がない。この大会名からは、この大会の目的が優勝や勝利だけを目指すものだけではないことを示している。苦難を乗り越え、いいラグビーを見せることのできたチーム、感動をもたらしてくれたチーム、ラグビーの技術だけでなく成長を遂げたチーム、そんなチームもまさに大勝利なのだ。

ゲームでの「勝負け」の基準は一つしかないかもしれないが、「価値」の基準はたくさんある。様々な形の勝利の姿がそこにある。

少子化、過疎化、一極集中、商業主義、合理主義、デフレ、さまざまな社会の動きが花園にも影を落としている。ラグビーも社会のなかの活動の一つであるのだから、その流れに流されない訳はない。

しかし、損得や利害、打算、理屈などを超え、お金では決して買うことのできない感動や、情熱や想いや夢、希望など、今年も高校ラグビーは見せてくれるに違いない。