1,はじめに
イースター蜂起の際に、GPO(中央郵便局)での共和国宣言に署名した7人。下段の真ん中が今回の主役のジョセフ・ブランケット。

この話は「グレース」という歌に歌われているイースター蜂起が失敗し、処刑される数時間前にキルメイナム刑務所内で結婚式をあげたジョセフブランケットとグレースギルフォードの悲しい物語である。
この二人は死に別れる運命がわかっていながらの数時間の結婚だった。
アイルランド政府軍はイングランド軍に平定を依頼し、イングランド軍はダブリンのリフィ川に戦艦を乗りいて、そこから艦砲射撃まで行った。蜂起は失敗し、ブランケットも捉えられ、ダブリン裁判も受けずに数日の間に他の14名と同様に銃殺刑になった。

(ブランケットら15名が銃殺になったダブリン西郊外のキムネイメイナム刑務所)
ブランケットは首謀者のピアースと同様に学校の教師をおこなっており、詩人としておおくの詩をのこしてる。このときブランケットは病気(結核)で入院しており、同士であるピアーズの呼びかけに応じ病院を抜け出して蜂起に参加した。
2,グレース
グレースギルフォードはブランケットの学生時代からの恋人だった。ある程度はブランケットの独立運動への参加には理解しあっていたが、ブランケットは病床にあり、過激な行動はしないものと安心していた。


しかし、彼が病院を抜け出し、蜂起に参加し捉えられ、銃殺刑を待つだけになったと聞いたときには動転した。
グレースは気丈にも仲間にもはげまされ、キムメイナム刑務所の神父に面会と結婚式の司祭を何度も頼み込んだ。その思いが通じ朝になれば処刑されるという前日の真夜中すぎに刑務所内で結婚式をあげることになる。二人は死が分かつことがわかっている上で、数時間だけ夫婦でいられることができた。
その時がこの「グレース」という歌に残っている。
多くの人によって歌われるが、ロッドスチュワートのバーションでお聞きください。
Grace As we gather in the chapel here in old Kilmainham Gaol I think about these past few weeks, oh will they say we've failed? From our school days, they have told us we must yearn for liberty Yet, all I want in this dark place is to have you here with me キルメイナム監獄のチャペルに集い この数週間を振り返る。果たして失敗だったのか? 学生のころから、自由への切望を教わった でも、この薄暗い場所では、君がここにいてくれと望むだけ Chorus: Oh Grace, just hold me in your arms and let this moment linger They'll take me out at dawn and I will die With all my love, I place this wedding ring upon your finger There won't be time to share our love for we must say goodbye グレースよ、ただただ私を抱きしめて、この瞬間よ永久に 夜明けには連れ出させて、死を迎えるだろう すべての愛を込め、結婚指輪を君の指へ 愛を分かち合う時など望めない。もう「さよなら」を言わなければ Now, I know it's hard for you, my love, to ever understand, The love I bear for these brave men, my love for this Dear land But when Pádhraic called me to his side down in the G.P.O. I had to leave my own sick bed, to him I had to go 愛しい人。解って貰えないことは分かってる 勇敢な者への愛、祖国への愛を パドリックが中央郵便局へと私を呼んだなら 私は病院から彼のもとへと行かねばならない。 Chorus: Oh Grace, just hold me in your arms and let this moment linger They'll take me out at dawn and I will die With all my love, I place this wedding ring upon your finger There won't be time to share our love for we must say goodbye Now as the dawn is breaking, my heart is breaking too On this May morn, as I walk out, my thoughts will be of you And I'll write some words upon the wall so everyone will know I love so much that all I could see his blood upon the Rose. 夜が壊れて夜明けとなり、私の心も砕け散る。 この5月の朝、表に出れば、あとは君を思うだけ 皆に知ってもらおうと言葉を壁に残す。 薔薇の上の血潮しか見えぬほどに、愛に溢れてた。 Chorus: Oh Grace, just hold me in your arms and let this moment linger They'll take me out at dawn and I will die With all my love, I place this wedding ring upon your finger There won't be time to share our love for we must say goodbye
その後グレースはブランケットの意思もついで、活動家になり、アイルランド独立のために戦った。
3,薔薇の上の血
歌の最後にあるブランケットが残した言葉が、この詞である。
ブランケットは蜂起の数日前にこの詩を書き、恋人であるグレースに送ってる。三人称で表現しているが、まさに自分の死に様を予感してしたかのようである。ブランケットは冷静であり、当初からこの蜂起が失敗に終わることはわかっていた。しかし、このような行動によってのみ、アイルランドの独立の機運を高めることになると信じ切っての犠牲敵精神からの行動だった。
I SEE HIS BLOOD UPON THE ROSE - JOSEPH M. PLUNKETT
薔薇の上に落ちる血潮
I see his blood upon the rose
And in the stars the glory of his eyes,
His body gleams amid eternal snows,
His tears fall from the skies.
彼の血潮が薔薇の花の上に落ちる
彼の眼差しは星々の中にあり
肢体は永遠の雪原に横たわり
波の涙が空から舞い落ちる
I see his face in every flower;
The thunder and the singing of the birds
Are but his voice—and carven by his power
Rocks are his written words.
彼の面影は全ての花々にあり
雷鳴と鳥のさえずりは彼の言葉にすぎない
彼の力が石に刻まれ
彼の言葉は岩のごとくなりき
All pathways by his feet are worn,
His strong heart stirs the ever-beating sea,
His crown of thorns is twined with every thorn,
彼の足跡は踏み硬められ
強き心は海原を波立たせ続ける
彼の王冠は、茨に絡まれる
His cross is every tree.
全ての木々は彼の十字架
(訳は筆者)
狙いは其のとおりになり、アイルランドで独立の機運や行動がたかまって、血で血をあらう抗争になった。1921年にアイルランド自由国、1949年にアイルランド共和国として独立をはだすが、北アイルランド紛争は1998年の和平協定までつづき、いまでも北アイルランドでは、プロテスタントとカソリックの間でのわだかまりは残っている。
その1で書いたイエイツの詞にあるように、
「かわった、全てが変わった
恐ろしい愛が生まれた」
のであった。





