ディランを(また)聴け その7 悲しみは果てしなく

ディランは好んでブルースを歌う。古いブルーズだ。フォークの神様、反戦の騎手などは周りが勝手につけた称号でしかない。
この曲の影響は大きい、レオンラッセルもカバーしてるし、スティーリー・ダンはデビューアルバムのタイトルをこの曲の一節「Can’t buy a thrill」からとっている。

だが、改めて、「It Takes a Lot to Laugh, It Takes a Train to Cry」というこの曲のタイトルの意味はなんなんだろう。ディランの曲には適当につけたタイトルで損をしてる曲がたくさんある。この歌もその一つだ。

歌詞にはこの一文はでてこない。直訳は「笑うには沢山のことが必要で、泣くには列車が必要」となる。つまり、泣くのも笑うのも沢山の手間がかかるという意味なのだろうか。詩の内容からするとシニカルで無感動で無気力で諦めに満ちている。そんな状況を歌にし(特にうまくいない男女関係に見立てて)客観視することで、困難な状況を笑ってやり過ごすというわけだ。これがまざにブルースの真髄なのである。そして、列車や、貨車やブレーキマン、木々のむこうのお月さま、など、古きアメリカ、貨車に無賃乗車して放浪するホーボーを思わせるブロットが出てくる。そしてディランの敬愛する、ウッディガスリーも貨物列車のブレーキマンだった。

一方で邦題「悲しみは果てしなく」とはこれまたどうなんだろう。たしかに、65年の追憶のハイウェイ61の収録のミドルテンポのブルースは、うまく行かない人生を歌っているようで、たしかにそこには、そこはかとなく悲しさがあるのだが、、、、、。

その後のディランのパフォーマンスでは、ほとんどテンポアップして激しいのである。攻撃的でもはやパンクである。

こうやって歌うと、同じ歌詞が性的で際どい内容に聞こえてくる。英語でクルは日本語でイクだし、丘の頂上とはオーガズムの絶頂だ。ガタゴトゆれる2段重ねの貨車、窓も窓の敷居も窓の霜も、なんだがどれも意味シンだ。

ニューポートでは問題の65年マギーズ・ファームに続いてや歌われた。映画にもあったように演奏は荒れに荒れ狂っている。これではお上品で保守的なフォーク信奉の紳士淑女にはたしかに「シゲキ」が強すぎたかもだ。

2つの訳をつけてみた。激しい方の最後の言葉は、NHK大河べらぼうの江戸言葉の影響で「知ったか知り糞」としてみた。

ミドルブルーズバージョン

Well, I ride on a mail train, baby
Can’t buy a thrill
Well, I been up all night
Leanin’ on the windowsill
Well, if I die
On top of the hill

And if I don’t make it
You know my baby will

郵便貨車にのっても
ゾクゾクはしない
敷居にもたれて夜を明かして
丘の上で死んだなら
あの子がだめな俺の代わりになる

1番は

Don’t the moon look good, mama
Shining through the trees?
Don’t the brakeman look good, mama
Flaggin’ down the “Double E?”
Don’t the sun look good
Goin’ down over the sea?

But don’t my gal look fine
When she’s comin’ after me?

木々の向こうのお月さま
見てくれは良くないだろ
複層貨車を止める
ブレーキマンもブサイクさ
海に沈む夕日だっでブサイクさ
おれにつくてくる娘も嫌だ

 

Now the wintertime is coming
The windows are filled with frost
I went to tell everybody
But I could not get across
Well, I want to be your lover, baby
I don’t want to be your boss

Don’t say I never warned you
When your train gets lost

冬になった、窓には霜がおり
知らせに行ったが
わかって貰えなかった
君の恋人になりたいんだ
亭主関白にはならないよ
列車が迷っても警告はしない
(途中で嫌になったなら、好きにしていいよ)

バンクロックバージョン

郵便貨車でも(がたがたがたがたはげんでも)
興奮しない
徹夜でやってもゾクゾクしない
絶頂でイッちまえば
相手が代わりにイッちまう

木々の向こうのお月さま
嫌だろよ
(拝んでるだけじゃ嫌だろう)
複層貨車を止める
ブレーキマンも嫌だろよ
(最中に邪魔が入れば嫌だろう)
海に沈む夕日だっでブサイクさ
(先にイッてしまったら嫌だろう)
俺の後でイク娘ももう嫌だ

冬だ、窓は凍って霜だらけ
(ちっとも濡れてない)
知らせに行ったが
わかってくれない
あんたの彼氏になりたいんだ
ボスになりたいわけじゃない
道をはずれようとも 「しったか知り糞」だ

 

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