ジャパンPNC 総括

1,世界のラグビーが動き出している

猛暑の日本でPNCが行われている同時期に、春先の南半球でのチャンピオンシップ大会では大きな動きが起こっている。

それは23年日本とナントの地で雌雄をあらそったアルゼンチンが発信源だ。アルゼンチンはオールブラックスを破り、先週はオーストラリアを大差で退け、この日は難攻不落と思われた南アを僅差でねじ伏せた。遂に南アフリカはランキング1位の座をアイルランドに譲り渡すことになった。
この日のスプリングボックスは主力を自国においての遠征だったが、この日まではオールブラックスやオーストラリアに盤石な勝ちをおさめていたのだ。その中でも、ムゴメズルなど新しい力も確実に育てなからの勝利だったのだ。その南アでさえ若手への切り替えには苦労しているのだ。4チームともW杯後に監督がかわり、新しいチームへの以降という段階にあるのである。

同じ状態にあるエディジャパンのPNCの主たる目標も若手の育成にあった。テストマッチは勝利しなければ意味がないという声もあるだろうが、実際のエディの考えは、当初からそこにはないのは明白である。その結果として、サモアに勝って、フィジーに敗戦という結果に終わったという事実は、現在位置として、受け入れなければならない。

それには「前任のジェイミージャパンをどう総括できているか」から話を始めねばならない。

2,現在のジャパンの最大の課題は

前任のジェイミージャパンは言わば即物的なチーム運営であった。リスクが少なくすぐに結果を出せるメンバーを集めた。それはジェイミーが自らコントロールできる人材を重視するというものだった。その結果、若手人材の育成と将来への継続が二の次にされた。そして、19年の栄光が23年W杯の時に、かえって頑な保身が見え隠れする体制となることになってしまった。途中コロナの影響もあって若手世代の国際経験の回数が極端に少ないままであったこともある。

現在のジャパンの大きな課題は、失った時間と穴をどうにか修復し将来に繋ぎ止めなければならないことだ。若手の人材の発掘と育成である。なかでも次の世代のキャプテンを誰にするかが最大の課題である。エディジャパンはもちろん現在そこに取り組んでいる。

リーチをキャプテンに指名したのも、リーチを休ませ、立川をキャプテンにしたのも、田中や大野、大西将太郎らをジャージ授与式に一人づつ呼んで話を聞かせているのも、日本ラグビーの文化や遺産や意思、精神の将来への継続を意図してのパフォーマンスなのだ。27年W杯時にはリーチは38歳、立川は37歳。如何に2人が鉄人だったにせよ、その時80分間ピッチに経ち続けられるのは不可能だ。現在2人がキャプテンをやっているのは、ピッチ内外でのキャプテンのお手本として姿を繋ぐためである。逆を言えば、信頼のおける若手がまだ不在であるということでもある。下川、原田、ディアンズなど候補はたくさんいる。そんな中から27年は若手の中で新しいキャプテンが率いることになるだろう。しかし今はまだ、決めかねている。まだその可能性を見極めている段階である。

だが、テストマッチのマッチメイクは相手もありなかなかうまく行かない。目の前のテストマッチの絶対勝利と将来への育成という二律背反のバランスをどう取るかが常に問われ続ける。

3,パシフィックネイションカップの位置付

パシフフィックネーションカップは、リーチ不在の中、そんな次世代キャプテン候補の育成や、各ポジションの層を厚くするという課題をメインに取り組んだはずだ。27年には中心となっているだろう、斉藤、タタフ、それにも矢崎もチームをこの夏後半からチームを離れることが想定された。しかし、そこに坂手、根塚の怪我も加わってしまった。ワクアもチームを離れた。さらにナイカブラも怪我し、山沢、松田も活躍の場は無く体調不良を理由に離脱となった。

坂手は原田でカバーでき、ワクワはエピネリでカバーできた。ナイカブラのところは長田が充分な活躍をみせた。リーチのとこには、コストリー、ファカタバがいる。トゥア、ライリーと同様マッカランのライリーのコンビも上手く行った。藤原は完全に欠かせなくなり、斉藤がもどっても場所がないかとも思わさせるほどだ。矢崎以外にも新しい力は確実に且つ驚異的な速度で成長を見せている。でもキャプテンだけはそうもいかない。

リーチ不在の中で立川を呼び戻すことは、当初から想定される設計図にはあったと思われる。立川は期待通りのキャプテンシーを発揮し、チームをまとめ上げた。問題はゲーム中のリーダーシップをだれが取るかであった。李の調子も素晴らしく、藤原とハーフ陣がまさに「超速」の体現になってきたからである。SOの李は外せない。それは熊谷でのUSA戦の序盤での坂手離脱となり、立川のポジションをどうするかという問題となって表面化する。

だが、まもなくこの回答は熊谷のUSA戦後半で見つかった。其の答えは立川、李のダブルSO,ダブルFBである。それを試すために地元で調子のでなかった山沢に替えFBで立川を投入した。それは思った以上にうまく機能した。そしてその超攻撃的体制は次のサモア戦で開花した。

 

4,フィジー戦の思惑

その勢いでフィジー戦に臨んだわけであるが、苦しめはしたが、それは序盤だけにおわった。

フィジーの実力、怖さはエディーさんが一番良くわかっている。2023年W杯、オーストラリアを率いていたエディさんは。フランス北部の町サンテティエンヌでフィジーに15−22と敗戦した。そして史上初めてオーストラリアはベスト8を逃し、母国でのHCの解任劇に繋がったのだ。フィジーは自由奔放なフィジアンマジックに加え、スクラムやフィジカルでも驚異的な強さをみせている。その時のメンバーが多く残った上に、前日準決勝のUSAのスクラムを何度もめくり上げるというスクラムの破壊力を存分にみせつけられてしまった。

これまでのフィジーの唯一の弱点は、集中力のムラがあることであって、思い通りのラグビーにならない時に冷静さを見失ってしまい、反則や判断ミスで自滅してしまうことにもあった。

そんなフィジー相手に格下の日本が「勝てる」、もしくは「良い勝負をする」というゲームプランとしては、「サモア戦の再現」、つまり立川ー李のダブルSOダブルFOでの超攻撃的布陣での先行逃げ切り、点差を広げてフィジーを焦らせること、これしかなかった。セットプレーの安定はそれを実現させる最低上限でもあった。しかし、実際のところは新しい駒を育成しようにももう手元には残っていなかったのだ。この作戦も積極策というより、この時点ですでに手詰まり感を拭い去れないものだった。急遽、高本、池田、濱野らを招集したところで短期間で溶け込めるほど甘くないはずだ。

というわけで、まったく同じメンバーでサモア戦の再現ということで臨んだ。(コーチスタップ内では葛藤もあったはずだ)

5,フィジー戦の結果と成果

したがって、このフィジー戦は前半が勝負のすべてだった。

たしかに、作戦は理にかなっていて功を奏した。PGで先行し、ライリーのトライで差を広げた。3−0から10−3。藤原、立川、李のし掛けはフィジーを慌てさせたし、低いスクラムも有効でフィジーは力任せに目繰り上げることなど出来なかった。

このまま前半は終わるはずだった。できればジャパンはもう一本とりさえすれば、フィジーのフラストレーションがフィジーのラグビーを壊し始めるはずだった。フィジーも耐えてた。その時エディさんの想定外はマンツの存在であったかもしれない。マンツは23年W杯杯は直前の怪我で欠場であった。エディさんのオーストラア戦には出ていない。この日も冷静なキックなどで、ブレの大きいフィジーのブレを少なくするような冷静な存在である。こうなると今後のフィジーは上位国にとっては難敵になるはずだ。

そして不運は予期せずに起こる。

キックを見事にチャージされて簡単にトライを許してしまう。(10−10)
そして原田のイエローがこれに続く。

こうなるとフィジーは乗ってくる。乗ってくると手をつけられない。

圧倒的なフィジカルの差では、体力的な消耗も激しくなる。それでもそれまでは立川という精神的支柱の存在によって、濁流のようなフィジーの圧力をなんとか押し留めていた。

立川がそして下川が交代になったとたんに、フィジーという線状降水帯による濁流は堰を切って溢れ出した。この日、能登地方をおそった大雨のように、一度堤防が決壊してしまったらそれはもうだれもどうすることもできない。

疑問に残るのはこの立川、それに続く下川の交代の判断のタイミングだ。エディなら、結果がこうなることは予想できたはずだ。
(難の因果か、決壊したのは立川、下川この2つの川なのだ、決壊というより、ダムの緊急放流による結果だったのかもしれない。立川、下川のダムはフィジーの水圧のため限界だったかもしれない)

一つ考えられるのは、エディさんは同点におわった前半の段階で、この貴重なゲームの機会を勝敗のことから、どの様に将来に有効なものとして使えるのかというプランBの考え方に乗り換えたのでないだろうかということだ。ただの敗戦でおわるより、敗戦以上の意味ある成果をすこしでも持ち帰えろう、と考えたのではあるまいか。
それが立川の交代、その後の下川交代であったでのではないか。
後の会見で「下川の交代後はマキシをキャプテンにした」という。マキシもキャプテン候補として試したかったのだろう。しかしその効果はみられなかった。

そしてこの日の梶村や濱野の投入も、経験をしたという以上の果実を得られたとはいいがたい。残念な結果であった。

結果的にはフィジー戦の敗戦で得られたものは少なかった。残酷にも現在位置が白日の元になったにすぎない。

6,今後の期待

ここから秋のAB戦まで1ヶ月の期間がある。こうなるとこの間、記者会見でもでたように、「ベテランを呼び戻せ」といった外野の声が上がってくることが予測される。

しかしエディさんはブレないであろう。
この日のメンバーに、山沢やナイカブラ、広げても根塚、高橋、まで、ベテランとしてはリーチや松田や坂手などの少数の範囲から23名を選ぶと思われる。
そして、クラブの事情がうまくいけば、フランスの現地で斉藤、タタフの合流ということになるかもしれない。

AB戦はリーチがもどればリーチがキャプテンを張るだろう。そしてその後リーチからだれがどのタイミングでキャプテンを引き継ぐことになるのか。エディさんの少し前の会見では「リーダーシップはすスキルであり、スキルは育成することができる」との発言もある。どのように育て行くのか、それが間に合うのかも含め注目すべきだ。現在は下川の名前が上がっている機会がおおい。

秋の遠征でフランスとイングランド戦の間にウルグアイ戦が組まれる事になった。この対戦は重要になる。ライバルのサモアが資金難で秋の応酬遠征が出来ないなかで、確実にランキングを上げるためのポイントを獲得しなければならない。

フィジー、アルゼンチンなどライバルはすでに現状では手の届きにくいほどの非常な高みにまで到達している。ジャパンは来年の12月までにランキング12位までになんとしても入っておかねばならない。そのためのテスストマッチの機会は来年のPNCを含めてもこれkら15回ほどしかないとおもわれる。

来年度にどのようなマッチメイクがされるのかも注目である。

上位国とあたって負け続けてもポイントは下がらいが上がることもない。実質的な少し上のライバルがすでにオーストラリア(10位)やウェールズ(11位)になっているのだ。つまり、オーストラリアやウェールズに当然のように勝つことができるようなレベルにまでなっていないと12位というところは難しいことになるのだとも言える。

 

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