名盤紹介 クリムゾンキングの宮殿 (全曲 新解釈)1969年

アルバムの概要

言わずとしれたプログレッシブロックの幕を開いたアルバムであり、現在もプログレシップロックの金字塔でありつける名盤と言えます。
ビートルズのアビーロードを一位の座から引き摺り下ろしたアルバムとしても有名です。

 

一度も耳にしたことがない人は今すぐ聴いてみましょう。
聞かないでいたなんて時間が持ったいなさすぎます

LP、CDを持っていたことのある人は今すぐ聞き直してみましょう
あたらしい発見が待っています。

当時、擦り切れるまでLPを聞いていた人も今すぐ聞き直してみましょう
やはり全く新しい発見が待っています。

メンバーは
キングクリムゾン のリーダーであり、首謀者で、現在でもクリムゾンを主導しているロバートフィリップがギター。
ボーカルとベースはのちにELPを結成するグレックレイク
メロトロンとサックスやフルートなどの木管楽器は、のちにヒットを連発した人気バンド、フォリナーにも参加するイアンマクドナルド。
そして初期のキングクリムゾンをクリムゾン成らしめているのがドラムズのジャイルズです。このドラムワークこそがこのアルバムの要であると言っても過言ではありません。
さらにさらに、作詞家のピートシンフィールドが第五のメンバーとしてクレジットされています。バンドの中に歌も歌わず楽器も引かないメンバーがいるのです。

収めらているのは次の5曲

サイド1
  1. 21st Century Schizoid Man (including “Mirrors”)” – 7:24
  2. “I Talk To The Wind” – 6:04
  3. “Epitaph (including “March for No Reason” and “Tomorrow and Tomorrow”)” – 8:49
サイド2
  1. “Moonchild (including “The Dream” and “The Illusion”)” – 12:13
  2. “The Court of the Crimson King (including “The Return of the Fire Witch” and “The Dance of the Puppets”)” – 9:26

発表されたのは1969年です

アナログ時代にこんな音作りをしたことなど今では考えられません。全面にメロトロンという楽器は録音した音階毎のテープの音を鍵盤で再生するという代物です。当時ビートルズはもちろん、ZPのジョンポールジョーンズなども多用しています。

それ以上にものすごいのが、作詞家のピートシンフィールドの詩とそれを見事に音にした世界観。見事にクリムゾンのコスモロジーを作り上げてしまっています。中学生の頃に初めて聞いたときには、欧州の中世封建時代を思わせる言葉の洪水に圧倒させられました。それだけで終わっていた感もありましたが、それでもアップアップでした(実は私もリアルタイムではなく、ロック少年だった中学生の時に、「展覧会の絵」で絶頂を極めていたELPやYESなどの流れで聴いたのでした。

その後も何度も付属の訳詞を見ながら聞き直す機会があったのですが、その度ごとにに新しい発見や、新しい解釈の仮説が浮かび上がって、いつも新鮮に聞き直したものでした。

また色々なロックの評論家先生も、様々に解釈して文を残しています。確かに様々な解釈があって良いとだと思います。

私も今回も改て聞き直して、また新しい解釈をしてみました。

権利上の問題で原詩のアップができません。私の新解釈の訳詞のみ掲載します。

1、21st Century Schizoid Man (including “Mirrors”)” – 7:24

鉄の爪たる化け猫の足
脳神経外科の医師は妄想の毒の淵で大きく叫ぶ
21世紀の精神異常者だ

血飛沫(ちしぶき)が棚や有刺鉄線に飛ぶ
ナパーム弾で政治家も罪なき人もイチコロだ
21世紀の精神異常者だ

死せる種子を盲人はむさぼる
飢えた詩人の子供らは血塗(ちまみ)れだ
必要なものなど何もない
21世紀の精神異常者だ

ダンテの「神曲」の地獄編の世界のような地獄絵図、阿鼻業間が歌われます(いや叫ばれます。)
この異常者こそ、本アルバムの一方の主人公です。

訳注)原詩は名詞の羅列でイメージが作られています。こう言った形式の歌詞は、テニオハは聴衆が勝手に想像でいられます。(このタイプの詩を私は「五木節、横浜たそがれメソッド」と勝手に呼んでいます。)
今回の訳詞は独自の解釈で名詞と名詞をつないでみました。

訳注)ナパーム弾、このアルバムの発表当時はベトナム戦争の真っ只中でした。そこで使われた殺戮兵器がナパーム弾でした。激しい火傷力で家も田畑も村ごと焼き尽くします。

2、”I Talk To The Wind” – 6:04

直行の男が、遅れた男に言った
「私はここにいて、あそこにも居たのだ
そしてその間にも居たのだ」と

私は風に話す
言葉は他所へ行っていまう
私は風に話す
風はここには止まらず
風は聞いてはくれない

私は外にいて内なるものを見る
そして見たものは、
多くの混乱と幻滅
それは私の周りにあった

君は聞こうとせず
耳を貸そうとせず
私を苛立させ
自制が効かなくなっていく
時間が無駄に過ぎゆく

私は風に話す
言葉は他所へ行っていまう
私は風に話す
風はここには止まらず
風は聞いてはくれない

 

私は、ストレートマンとレイトマンは同一人物であるという解釈の説に立ちます。お察しの通りこの者こそは21世紀の精神異常者であります。
21世紀の精神異常者である主人公は、多重人格者であり、少なくともストレートマンとレイトマンという2つの人格を持っています。レイトマンは21世紀に遅れて出て来た人格の精神異常者であり。もう一方の人格であるストレートマンは、レイトマンに何か忠告のようなことを話しかけようとしているようですが、レイトマンはそれを聴いてくれません。「まるで風に話しているように」。

「私は外にいて内なるものを見る」このストレートマンの人格は肉体を離れて、つまり幽体離脱して客観的に自分や周りを見る能力も兼ね備えているようです。

 

訳注)シンプルな歌詞と曲調なので、あえてシンプルに直訳してみました。
60年代は、ボブディランも風の中に吹かれている答えを探していました。日本でもはしだのりひこが風の虚しさを歌にしています。

さて、話をしようとした冷静なストレートマンはどんな人格なのでしょうか、そして、何を話そうとしているのでしょうか。

その答えは次の曲にあります。
レイトマンはすでに数百年前に他界しております。墓碑銘は「錯乱」です。

 

3、”Epitaph (including “March for No Reason” and “Tomorrow and Tomorrow”)” – 8:49

預言にて封されし城壁はほころびて
殺戮の武具は夕陽に輝けり。

悪夢と野望に民人が分裂(さけ)たりしとき
静寂(しずけき)が叫声(こえ)をも消し去るがごとく
栄冠なぞ、誰(たれ)、何処(いずく)ぞにもあるまじ。

宿命(さだめ)たる鋼(はがね)の城門の間(あわい)には
終末(とき)の種は撒かれたり。

あはせて、賢者達の行状(おこなひ)、水を注ぎたりぬ。

掟を定めし者こそ無からば
「知」はまた「邪悪な友」とぞ為りにけり。

今や全人類(ひと)の運命(さだめ)は
愚者どもの手中にぞありけり。

我が墓碑銘は「錯乱」ならんとす。

罅(ひび)さす荒れし小径を這うがごとくに

願わくば、座し笑しませらば

否、我は明日を怖(ふ)す 我は泣哭(きゅうこく)せらむ。


この曲の主人公は一方の人格であるストレートマンです。
時代は一挙に900年ほども戻ります(と思われます)。
ストレートマンは中世の12世記ごろの欧州に生きていました。ある国の王様の地位にいるのでしょう。治世に過ちを犯し、王国の民を避けがたい無駄な戦乱へと導き混んでしまいます。多くの民も命を落としましたが、彼自身も深い悲しみと後悔の中、戦争の混乱の中で命を落とします。

ただし彼の魂は生き残り21世期の精神異常者の第二の人格となっています。
ここではまだ明かされませんが、当時の王国の名はまさしくクリムゾンです。ストレートマンこそは「真紅の王」なのです。

つまり、前曲では、暴力的で危険な人物、レイトマンこと自分自身である21世紀の精神異常者に、過去の過ちを犯さないようにと忠告を発しているのです。(聞き入れてはくれませんが。。。)

訳注)古臭い感じを出すためにあえて古文調にしてみました。しかし、古文の文法は忘れていまして、うまくいきません。高校のときもう少し真面目にやっておけば良かったと後悔しています。

訳注)最初の2行 直訳は
「預言が書かれた壁は縫い目から欠けていく
死の道具の上に太陽が輝き光る」

これを下記のように意訳しました

「預言にて封されし城壁はほころびて
殺戮の武具は夕陽に輝けり。」

シールされていた=封印されていたということと解釈しました
また、SUNとしかありませんが、勝手に夕陽にしてしまいました。
ほころんだ穴の空いた壁から刺すのは西日かな、と思います。

 

訳注)The seeds of time 直訳の「時の種」ではよくわかりません。TIMEには「締め切り」、「最後」の意味もありますので「終末(とき)の種」としてみました。また次のバースに出てくる「賢者たちの言動が「水を注いだ」」というところともつながっています。さらに一曲目には、既に「Death seed(死せる種)」が出ています。The seeds of timeはこれを想像させ暗示させます。

12世期は王国の滅亡だけで良かったのですが、21世紀に撒かれる「死の種」、「殺戮の道具」はなんでしょう。考えるとだんだん怖くなっていきます。このアルバム発売当時は米ソ冷戦時代の真っ只中だったので「核」が意識されていたことは間違いありません。しかし実際に21世紀になり、コロナ禍の今となってみると、殺人ウィルスであるように聞こえてなりません。マスクもしないで感染を拡大させたトランプ(今の時点ではまだ大統領)にもかさなります。

 

ストレートマンが墓碑銘「錯乱」であることはわかりました。しかし、21世期に生きるレイトマンとの関係はどうなのでしょう。同一人物であることは確かですが、なぜレイトマンの第二の人格となって現れるのでしょう。

その訳は次の曲を聞くとわかります

4、”Moonchild (including “The Dream” and “The Illusion”)” – 12:13

この曲には優しい時の人格が全面に出ています。
この人格は第三の人格と言っても良いと思われますが、レイトマン、ストレートマンに共通する人格の様です。

彼女は「月の子供」と呼ばれる
川の浅瀬で踊っている
寂しげだ
柳の木陰で夢見る
蜘蛛の巣が張っている木に話しかける
噴水の階段で眠っている
夜小鳥達の歌に合わせて銀の指揮帽を振る
山で日の出を待っている

「月の子供」
庭苑で花を摘み
可愛らしく
時の木霊の中を漂い
穂に風を受け
乳白色の服を着て
日時計の周りにサークルストーンを作る
夜明けの幽霊と鬼ごっこをする
「太陽の子供」の笑みを待つ


サークルストーンは、イングランドではストーンヘンジが有名ですが、ストーンヘンジの周りにも大きなものでないものはたくさん存在します。スコットランドやアイルランドの方がより多くあります。古代ケルトの民が聖霊を呼び、政をしました。「月の子供」はこの聖霊でしょう。不思議な力を持っています。

最後に出てくる太陽の子はレイトマン、ストレートマに今日通する人格である子供時代の人格でああり、月の子供は夢なのか現実なのか交錯する世界の中で共通する遊び相手だったことでしょう。

つまり、子供時代であり、つまり、同じ子孫である。
ということは、王家は21世期まで代々? ということは、レイトマンも今は王様?
世界に影響力を持つ人物です。世界を終わらす様な破壊兵器を握っています。
優しい顔を持つのに殺人鬼のような人物、何をしでかすかわからないではないか?世界はついに終わりとなってしまうのか?

レイトマンは子供の頃に想いをはせ、懐かしい優しい気持ちになります。しばし夢の中で考えこみます。そして静かに決断をしました。「この月の子供の力を借りようと。」月の子供は長い間囚われの身でした。

それでは、ストレーマンこの「月の子供」の力を借りて何をしようとしているのでしょう。
その答えは最後の曲で明かされます。

 

5、”The Court of the Crimson King (including “The Return of the Fire Witch” and “The Dance of the Puppets”)” – 9:26

囚われた月、錆びつき鎖
うち破られし 陽光に
我が歩むと、地平は変わる
馬上試合が始まりぬ
紫紺の笛吹、音色を奏で
安息の歌 唄われぬ
古(いにしえ)の三つの子守唄
真紅の王の宮殿に

街の番人、夢を閉ざして
我、あてどなく、巡礼門の外で待つ
黒の女王、歌うは火葬の葬送曲
割れた青銅の鐘が鳴る
呼び入れたるは、火使いの魔女
真紅の王の宮殿に

庭師達、永久(とこしえ)創るが花は踏む
我も苦楽を味わうべくに
三稜鏡(プリズム)舟の風を追う
紋様服(もんようがら)の曲芸師、その手を高く振り挙げて
音楽隊、静かに曲を奏で出す
石臼がそろりと廻り出すがごとくに
真紅の王の宮殿で

涙するのは未亡人
賢者は交わす戯言を
優しき灰色たる朝に
我は予言をとり進め、謀(はかりごと)を仕上げんとす
黄色き道化、演じはせずとも糸を引き
人形(ひとがた)が踊り出すがごとく
ほくそ笑む
真紅の王の宮殿で

一見過去の宮殿の様ですが、これは現代(21世記)の宮殿の様子です。
幾度となく戦乱で荒れても、何度も再建されたのでしょう。
今は庭師達によって庭園もきれいに整っています。
今日は灰色の朝、特別な日に当たります。
過去に多くの犠牲者を出して、未亡人達はそれを悲しむ日です
知識人達は、その愚行に対して批判をする日です。
おそらく戦争記念日の様な日でしょう
宮殿の内や宮廷では過去から伝わる様々な行事が始まりつつあります。

ストレートマンである人格は、この日に特別な謀を実行しようとします。
レイトマンの昨今の行動を危ぶんで、それを力づくで阻止しようとしているのです。すでに月の子供の力を借りてて手筈は整っています。
過去の自分の行ってしまった愚行を繰り返さない様にしようとしています。
その方法はというと、これがまたすごいことです。

「火使いの魔女の召喚」です。

火使いの魔女を呼び入れて、宮殿を焼き尽くす計画です。
プリズムの光を操作しました。
おそらくその七色の光が、船となって過去の魔女を現在(21世紀)に呼び戻すことができるのだと思います。
(ここまで来ると、ストレートマンそのものも正気なのかどうか疑わしくもなります)

それとも知らず、宮殿では静かに厳かに式典は進みます。
計画が直然に公にならぬ様、様々なところにすでに手を打ってあります。式典に意識が集中する隙をねらって、魔女を近くまで呼び寄せる算段です。

宮殿内では、何語ともないかの様に、馬上試合が行われ、オーケストラは演奏し、過去の3つの子守唄が歌われ、黒の女王は葬送曲を歌います。

そして曲芸師によりマペットの劇が始まりました

するとマペットをあやつっている曲芸師が初めにその異変に気づきます。

ふと見上げると宮殿の窓の外に「火使いの魔女」とその大軍団が集結していたのです。
おそらく火を吐く巨大なドラゴンも数体いたことでしょう

大混乱が起こります

そして世界は突然終わります。いや、世界が終わったのか、2つの人格が同時に消えただけのかはわかりません。突然の無の世界に放り込まれて物語は終わります。

 

まとめ

それにしても過去から未来の壮大な世界です。
ここには対立する様々二つの概念が見事なまでに対比的に登場しています。

過去ー未来
善ー悪
正気ー狂気
優しさー暴力
戦争ー平和
刹那ー永遠
月ー太陽
光ー闇
表面ー深層
時間ー空間
内ー外
誠実ー虚構
現実ー空想
希望ー絶望
賢人ー愚か者
無垢ー老練
為政者ー民人
苛立ちー落ち着き
静寂ー喧騒
整然ー混乱
始まりー終わり

物語としても面白いし、ビジュアル的にもが像が浮かび上がってきます。映画にしてみたらヒットしそうです。

今回、すごく冒険してあえて新しい解釈にチャレンジしてみましたが、一度その様に解釈できると思ってしまうと、今の私にはそれから何度聞いてもその様にしか聞こえてきません。
またある程度時間が経ってみればまた新鮮な気持ちで新たな解釈ができて、作品の魅力を再発見できるのではないかと思っています。名盤とはこういうものです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です