名曲紹介 スティーライスパン モントローズ 

 

はじめに 概要

イングランドのトラッドグループSteeleye Spanの曲を紹介します。

Steeleye Spanはフェアポートコンベンションのベース奏者のアシュリーハッチンソンが作ったグループで、フェアポートコンベンションと同様に、イングランドやスコットランドのトラッドやバラッドを電子楽器をも用いてアレンジして聴かせます。 75年にはAll Around My Hatというヒット曲があります。

この曲はスコットランドの英雄モントローズ伯を歌ったもので、当時のメンバーの共作です

 

(この記事の英語の歌詞はこの動画を参考にさせていただきました)

モントローズとは、スコットランドの初代モントローズ伯、ジェイムス=グラハムのことです。

 

この曲はバラッドの形式を取りながら、このモントローズ伯の生涯が連綿と歌われます。ライプ版で15分以上の曲ですが、途中何度も曲調が変わり、リズムも複雑で飽きさせません。

 

時代背景

まず時代背景です。スコットランド王のジェイムス6世はエリザベス女王崩御のため、イングランド王ジェイムス1世として即位、スコットランド王ながら、イングランド王という同君連合が実現します。

 

しかし、ジェイムス1世は、イングランド国教会に改宗し、王権神授説を唱え、専制君主として行動します。その息子チャールズもスコットランドに新しい祈祷書を押し付けます。そしてスコットランドでは、プロテスタントである長老派が猛烈に反発し、主教戦争という反乱が起きました。

2度の内乱はスコットランドの盟約派の勝利となります

イングランドでは、このスコットランドとの戦争の経費で議会と王がもめ、イングランド内戦とつながります。イングランドの議会派とスコットランド盟約派が近づきます。

その後盟約派は独立派や水平派を含む急進的な議会派と、王がいても好きなように祈祷できれば良いという穏健的な王党派に分裂します

これがピューリタン革命です

 

 

モントローズはこの内乱の中で最初は盟約派として解決に奔走し、その後急進的すぎる議会派に反発して王党派になります。

モントローズは一度は破れてオランダに亡命しますが、チャールズ1世が処刑されたことを知ると、捲土重来を期して再上陸します。しかし夢半ばで仲間の裏切りによって議会派にとらわて、処刑されてしまうのです。

結果はご存知の通り、クロムウェル鉄騎隊のピューリタンが勝利し、イングランドは共和制となります。しかしクロムウェルも護国卿となり独裁に走り、王政復古がなります。

宗教の対立からくる様々な派閥、歴史上の人物、スコットランドの各地の地名クランの固有名詞がたくさん出てきますので、少々解説を交えながら訳してみます。

多少無透かしいけれども、この曲で、日本人には馴染みの薄いスコットランドの歴史と地理が一挙に勉強できます。

 

議会派=円頂党(Roundheads)王を排除して議会が全てを仕切る。独立派や水平派も含まれる 急進派 後のホイッグ党につながる
(当時の貴族やジェントリはカツラだったが、長い髪をするのが普通だった。議会派はカツラを被らず単発で丸い頭をしていたことから、蔑んで言われるようになった)

王党派=騎士党 キャヴァリアー(Cavalier)自由な祈祷書さえ確保できれば王がいても良いとする穏健派 後のトーリー党につながる (騎士は結局は格好つけていつだけで女子のお尻を追いかけ回すだけ、ということを意味して蔑んで言われるようになった)

 

曲の内容 その1 生い立ち

 

When James the King ruled by sceptered crown
With bishops and pen from London town
And the sword could ne'er bring Scotland down
Where the cold North wind creeps through the dawn
At old Montrose on a winter's morn
The fourth Earl's only son was born

ジェームス1世が司祭と文書によってロンドンから王冠を受けた頃
武力でスコトランドを制圧できないでいた時
冷たい北風の吹く夜明けに
古い街の冬のモントローズで
四代目の伯爵の一人息子が生まれました。

 

ジェームス1世即位は1603年
モントローズ生誕は1612年のことです

And he grew strong and he grew stern
Of books and knowledge he would learn
And so to Glasgow he must turn
For truth and valour he was named
For bowmanship he was acclaimed
And the silver arrow he did gain

そして、彼は読書と学習で強くたくましく成長します
そしてその誠実さと勇気が評判になり
また弓術も絶賛され
グラスゴーに行くことになりました
彼には白羽の矢が立ちました

 

 

First through France then to London town
This noble youth did proudly ride
With his good bow strapped in behind
Then his king's favour he has sought
But slander brought it all to nought
To Scotland he sped back from court

初めはフランスで、そしてロンドンで
高貴な若者は、お気に入りの弓矢を背に誇らしげに馬に乗りました
そして彼は王の好意をもらえると思いました
しかし法廷から戻ったスコットランドでは
誹謗中傷が全てを無に期してしまうことになるのです

 

But new king Charles, so ill advised
By Hamilton and Laud likewise
Scotland they betrayed by lies

With papacy and bad intent
A new prayer-book to Scotland sent
To control the kirk was his intent

新しい王のチャールズ1世は、
ハミルトン卿とロード司教の悪いアドバイスによって
新しい祈祷書をスコットランドに送り
スコットランド教会を丸め込ませようとしました

 

new king Charles, チャールズ1世

Hamilton ハミルトン=ハミルトン侯ジェイムスハミルトン(スコットランドの貴族で、ジェームス1世の命でスコットランドの長老派をなだめる役をするが失敗する)

新しい祈祷書がスコットランドに届けられたのは1637年

Laud ウイリアムロード(カンタベリー大司教)反カルバン派の知恵袋、ジェームス王とチャールズ王の側近)1645年には、逆に議会派によって捕らえられ処刑される

the kirk =スコットランド教会

 

曲の内容 その2 主教戦争

 

Paupers raged around Saint Giles against the king's churchmen
But Montrose spoke above them all, the people's love to win
So Jamie joined the Covenant, for war they did prepare
And he rode north to Huntly's house but found no welcome there
So the gay red Gordon ribbons were chased around the land
Until at Inverurie Lord Huntly signed his hand

貧しい人々が、王の教会員に反対してセントジャイルズを取り囲みました
そこでモントローズは全員に話しました。すべての人の勝利への愛を
そうして、モントローズも盟約派に加入しました。戦いのために準備しました
しかし、北のハントリー卿の家では歓迎されませんでした
インバリーでハントリー卿がサインをするまで
イングランド兵が国中を追いかけてきたからです



 

Saint Giles セントジャイルズ教会 エジンバラの中心の教会 エジンバラの中心を東西に伸びるのロイヤルマイルの中間あたりにある 今でもエジンバラ観光の中心。

the gay red Gordon ribbons 赤とゴールドのリボンの男(イングランド軍の事)

the Covenant, 盟約派=長老派(スコットランドのプロテスタント、カルバン派)で長老制度を守るるために誓約した人々。

Lord Huntly ハントリー卿ジョージゴードン(スコットランドの貴族だが、母方のアーガイル卿がイングランド側についたために寝返った、アバディーンに立てこもるが、モントローズらの盟約派と戦闘(ティー橋の戦い)で捉えられエジンバラで送還された・

 

So Montrose rode to Aberdeen where the Covenant held sway
To speak the king at Berwick, a truce was signed that day

But the grim Geneva Ministers put Montrose in a cell
And there he thought to serve Scotland and serve his king as well

Meanwhile down south in England the civil war began
So Montrose rode to London town to parley with the king

For a thousand men he pleaded to save his fair Scotland
But he returned a general without a single man

モントローズはベリックで王と会談を持つため、盟約派が揺れ動いているアバディーンに駆けつけます。そしてその日のうちに和議を結びます。
しかし、厳しいジェノバの大臣はモントローズを投獄します。

モントローズはスコットランドにも国王にも従おうとしたのです
しかし、今度はなんと南のイングランドで内戦が勃発します。
モントローズはロンドンに馬で乗り付け国王と会談します
千人の仲間のためにスコットランドを救って欲しいと嘆願します。
しかし、彼は一人の側近もつけずに将軍の座を返還することになります。

Berwick ベリック条約 1639年イングランド北部ベリックアポンツイードで結ばれた第一次主教戦争の講和条約

 

the grim Geneva Ministers  ジェノバの大臣=プロテスタントの宗教改革の指導者ジョンノックスのことです。ジョンノックスはジェノバでルバン派の教えを受け、スコットランドで宗教改革や布教に活躍した。カソリックのメアリー女王とのやりとりは有名

the civil war began 第一次イングランド内戦 1942年

 

曲の内容 その3 スコットランド内戦

 

The giant MacDonald Alastair with sixteen hundred men
From Ireland sailed to join Montrose and plunder Campbell's glen
Montrose the small united force of gaelic men did lure
Against seven thousand covenant on the field of Tippermuir

アレクサンダーマクドナルドはアイルランドから1600名の大群とともに 参戦して、アーチボルトキャンベルを制圧します。
テンパミューアの平原での7千の盟約派に対抗し
モントローズがゲール人のちょっとした団結力を誘ったのです。

 

The giant MacDonald Alastair  のこと。アイルランドの氏族、ゲールスコットランドつながり

Campbell’s glen 初代アーガイル侯アーチボルトキャンベル スコットランドの貴族。

the field of Tippermuir テンパミューアの戦い1644年

スコットランド内戦1944ー45 チャールズ1世の命を受けたモントローズがアーガイル侯キャンベルと戦った戦争

I'll serve thee in such noble ways was never heard before
I'll crown and deck thee with all bays and love thee more and more

このような見事な方法はかつて聞いたことがありません
あらゆる窮地で彼を薦したい。そしてもっともっと愛したい。

 

 

crown and deck 冠とデッキですが、ここは動詞として使われています。冠を捧げて壇上に載せたい=讃えたい、推奨したい。

all bays 湾のことですが、追い込まれた場所の意味=窮地です あらゆる窮地の意味。

 

With stones and bows, the screaming clans put covenant to flight
That sabbath day at Tippermuir was such a bloody sight
Then marching north to Aberdeen where treasure could be found
The soldiers fought for bounty there while James fought for the crown

投石と弓矢で武装し、叫ぶクランを盟約派にむけ戦かわせました
テンパミュアーの安息日は血の有様です
「宝が見つかるにでは」と北のアバディーンへ行進します
ジェームスが王冠のために戦いますが、一方、兵士たちは実利のために戦うのでした


 

I'll serve thee in such noble ways was never heard before
I'll crown and deck thee with all bays and love thee more and more

前代未聞の見事なやり口と称えたい
あらゆる窮地で彼を薦したい。そしてもっともっと愛したい。

 

His army now three thousand strong, he was resolved to go
To meet the Campbell in his lair through all the winter snow
King Campbell sailed from his castle strong as Montrose' pipes drew near
No refuge from the lord on earth, no pity for Campbell's fear

彼の3千人の軍隊は強く
彼は雪の中キャンベルの居留地へ攻め込もうと決心します。

キャンベルはモントローズが近づくと鉄壁な城から逃げ出します
しかし、地上には逃げ場はなく、キャンベルには情け無用でした

 

 

I'll serve thee in such noble ways was never heard before
I'll crown and deck thee with all bays and love thee more and more

前代未聞の見事なやり口と称えたい
あらゆる窮地で彼を薦したい。そしてもっともっと愛したい。

 

With Campbell lands all wasted, Montrose was forced to guess
To fight Argyll or Lord Seaforth on the road to Inverness
It came to pass that Campbell's might was smashed on Loch Eil's shore
And the terror of Clan Diarmaid will hold the glens no more

キャンベルの領地はもぬけの空で、モントローズ達はアーガイルやシーホース卿と戦うためにインバネスへの北上を強いられます。

ついにキャンベル公はイル湖の岸辺に打ち捨てられます
さらにダイアメイド卿は恐怖で視線を保つことすらできません。

 

Argyll アーガイル アーガイル地域 もしくはアーガイル公

Lord Seaforth 北のハリス島などの島を拠点にするクラン

Inverness ネス湖の北岸の町、ハイランドの中心地

Loch Eil  イル湖 フォートウィリアムスの西の湖

Clan Diarmaid アイルランドのクラン Diarmaid Ó Seachnasaighのこと

 

I'll serve thee in such noble ways was never heard before
I'll crown and deck thee with all bays and love thee more and more

前代未聞の見事なやり口と称えたい
あらゆる窮地で彼を薦したい。そしてもっともっと愛したい。

 

At Auldearn, Alford and Kilsyth, the royal standard shone
As Alexander he did reign and he did reign alone
Then Montrose entered Glasgow with Scotland at his feet
But the power could not be broken of the minister-elite

オルダーンでアルフォードでキルキスで、王旗が翻りました
アレクサンダー大王のように彼は一人で統治しました
そしてモントローズは徒歩でグラスゴーに向かいました
しかしエリートの大臣の力は崩れませんでした

 

Auldearn オルダーン ハイランドのネアンの近くの町
Alford  アルフォード アバディーンの西にある町
Kilsyth キスシス グラスゴーとフォルカークの間にある町
8月15日キスシスの戦いの戦場となった

the royal standard shone  the royal standardは王室の旗、つまり王党派に落ちたということ

the minister-elite ここはジョンノックスのこと

 

 

I'll serve thee in such noble ways was never heard before
I'll crown and deck thee with all bays and love thee more and more

前代未聞の見事なやり口と称えたい
あらゆる窮地で彼を薦したい。そしてもっともっと愛したい。

 

しかし、クロムウェルの鉄騎隊が優勢になり、チャールズ1世は議会派の手に落ちます(1945ネイズビーの戦い)。モントローズも一旦はオランダのハーグ(カルバンの拠点)に亡命して体勢立て直しを画策します。

しかし、チャールズ1世が処刑されたと聞くや、スコットランドへ再上陸して、一度は敵味方だったアーガイル公などとも合流し、イングランドへ反旗を掲げます。しかしその途中で仲間の裏切りにあってしまいます。

曲の内容 その4 裏切りから処刑まで

Soon the year of miracles, like the slowly setting sun
Was melting now before his eyes, all he could do was done
AtPphiliphaugh and Carbisdale warm fortune did turn cold
MacLeod, the devil's advocate, sold James for oats and gold

奇跡の年はゆっくりとした落日のように彼の目の前で暮れようとしています
彼はできること全てをやり遂げました。
AtPphiliphaughとCarbisdaleの温かい財産は冷たくなった(=財産を使い果たした)
悪魔のマックラウドは食料と金のためにジェームスの身を敵(=議会派)に売ってしまします

 

AtPphiliphaugh 不明
Carbisdale スコットランドの町

MacLeod, スコットランドのクラン

1650年カービスデールの戦いに負けたモントローズはマックラウウドの妻が差し向けた議会軍にArdvreck城で捕まってしまう

I'll serve thee in such noble ways was never heard before
I'll crown and deck thee with all bays and love thee more and more

前代未聞の見事なやり口と称えたい
あらゆる窮地で彼を薦したい。そしてもっともっと愛したい。

 

The judges passed their cruel sentence, traitors laughed and jeered
He stood unmoved in stately calm and spoke quite unafeared
"Nail my head on yonder tower, give every town a limb
And god who made shall gather them, I go from you to him"

判決文が渡されると、裏切り者は嘲り笑いました
彼は堂々と落ち着いてすっくと立って、そして静かに言いました

「あちらの塔に頭を打ちつけるが良い、街という街に四肢を配るが良い
すれば、神はそれらを集めようぞ、私はあなたの元から神の元へいく」

 

As he turned from out the hall, clouds left the sky
To battle he has never walked more proudly than to die
They set him high upon a cart, the hangman rode below
There stood the whig and west country lords in balcony and bow

彼はホールを出て引き返します 雲が空を離れています(空が晴渡ります)
死ぬよりはもっと誇り高く動くことのできない戦いへと
彼らは彼を荷台にの上に乗せ、下には死刑執行人が乗っています
そこにはホイッグ達が立っており、西の国の卿はバルコニーから眺めています


 

west country lords
囚われたモントローズの体は、荷車に結え付けたれ、晒し者にされ、オークニー諸島の方からエジンバラまで運ばれる。その道道のクランの諸侯達のことを思われる

battle he has never walked  囚われたモントローズの体は、荷車に結え付けられ、晒し者にされる= 歩くことができない戦い

the whig Whigはスコットランド方言で「馬を乗り回す」者の事。議会派はその後ホイッグ党と呼ばれることになるが、この時点ではまだホイッグ党の名前は一般的ではなかった。

 

They brought him to the water gate, he looked so great and high
So noble was his manly frame, so clear his steadfast eye
The rebel rout forbore to shout and each man held his breath
For well they knew a hero's soul was face to face with death
Loving Scotland and his king, he went to death that morn
A shudder ran across the sky, the work of death was done

彼らはウォーターゲイトへ運びます、彼は偉大で尊大に見えました
高貴さが彼の人としての形であり、しっかりした目は澄んでいました。
破れ去った反逆者達は叫ぶのはやめ、彼の息に耳を傾けます
英雄が死に直面したと悟り、その願いのために
スコットランドと王を愛した彼は、死して母の元にいくのです
雷が空を駆け抜けます そして、死への歩みは始められました


 

その後

モントローズはエジンバラで処刑され、その遺体はバラバラにされて各地にばら撒かれます。

スコットランドでは、チャールズ1世の処刑の後、チャールズ2世が王位につきますが、スコットランド内は混乱のままです。チャールズ2世はイングランドへ戦いを挑みます(51年)が、ウースターでつかまってしまいます。そこからの脱出劇は有名な「ロイヤルオーク」の話です。一時パリに亡命します。

イングランドでは共和制となり、クロムウェルが力をつけます。彼は敬虔なピューリタンなので、娯楽禁止、贅沢禁止、お洒落禁止、などを市民に押し付けます。市民には不満が高まります。また、カソリックは異端だと唱え、アイルランドを侵略します。アイルランドはイングランドの植民地になります。アイルランドでは今でもクロムウェルは嫌われています

 

でも親子二代に渡るクロムウェル急進的にやりすぎたのでしょう。王政復古になり、チャールズ2世が新しい王として迎えられます(61年)。アーガイル侯キャンベルは国賊として処刑させられました。

モントローズの遺体は(モントローズの言葉通り)全国から集められ、英雄として国葬が行われエジンバラのセントジャイルズ教会に埋葬されました。

アーガイル侯も1663年に復権がなされました

現在、セントジャイルズ教会には、最初は敵味方で戦い、最後は協力関係となりイングランドに対抗したモントローズとキャンベルは仲良く埋葬されています。

 

 

 

 

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