Slyを聴く その2 Thank you (falettinme be mice elf agin) 夢の終わりと燃え尽きの70年代

今回問題となる曲は全米No1となった、「Thank you (falettinme be mice elf agin)」とアルバム「暴動 (THERE’S A RIOT GOIN’ ON)」です。

Thank you (falettinme be mice elf agin)


Lookin' at the devil, grinnin' at his gun
Fingers start shakin', I begin to run
Bullets start chasin', I begin to stop
We begin to wrestle, I was on the top

悪魔を見たのさ、銃を構えてニヤリとしてやががる
指が動きはじめたんで、オレは逃げ出した
弾丸が追っかけてきたが、オレは立ち止まった
俺たちは取っ組み合って、オレが勝った

(悪魔=プロモーターや事務所のことを指していると思われます。つまり、大金を積まれてスカウトされた時のことを皮肉っています。結局は悪魔に魂を売った形だけども、交渉して最後は自由にやらせてもらったという経緯と思われます。そしてその結果は全米NO1になりました。)


I want to thank you falettinme be mice elf agin
Thank you falettinme be mice elf agin

(falettinme be mice elf aginは、for let me be myself  again を変形して歌詞にしています。「また自分に戻れてありがとうよ。」しかし、それをまともに歌詞にせずに茶化した歌詞にしているところがミソです。このことは後で考察します。)

Stiff all in the collar, fluffy in the face
Chit chat chatter tryin', stuffy in the place
Thank you for the party, but I could never stay
Many thangs is on my mind, words in the way

襟を正して、満面顔
くだらないお喋りは息が詰まるぜ
パーティをありがとうよ、でもオレはおさらばさ
いろいろなことが浮かんでくるのさ、言葉で勝負さ

(スター街道まっしぐらとなれば、様々な会に呼ばれます。しかし、スライに取っては窮屈で退屈だったのでしょう)

I want to thank you falettinme be mice elf agin
Thank you falettinme be mice elf agin

また自分に戻れてありがとうよ

Dance to the music, all nite long
Everyday people, sing a simple song
Mama's so happy, Mama start to cry
Papa still singin', you can make it if you try

Dance to the music を一晩中やった
Everyday people sing a simple song も同じさ
ママはハッピー でも泣き出した
パパはまだ歌っている  you can make it if you tryを

(全てスライのヒット曲です。
Dance to the music 67年8位
Everyday people 68年1位(前回記事参照)
sing a simple song Everyday people のB面でチャートイン
you can make it if you try アルバムSTANDの中の一曲 元はの58年のヒット曲でローリングストーンズもカバーしている、SLYのバージョンは歌詞やメロディアレンジを大幅に変えています
きっとスライには、毎晩何度も同じ曲を演奏させられるのって耐えられなかったと思われます。)

I want to thank you falettinme be mice elf agin
(Different strokes for different folks, yeah)
Thank you falettinme be mice elf agin

(Different strokes for different folks=『違った民族には違った習慣がある」。大ヒットしたEveryday peopleの中の一節で、当時は自由や融和を目指す人たちの間では流行語にもなった。)

Flamin' eyes of people fear burnin' into you
Many men are missin' much hatin' what they do
Youth and truth are makin' love, dig it for a starter, now
Dyin' young is hard to take, sellin' out is harder


世間の熱望の目があんたを焼き尽くす
男たちはやったことを不快に思い
若造や正直者は愛し合い、まさぐり合い始め
溺れる若者は、掴み取るのも難しく、売るのはもっと大変

(「Dyin' young =溺れる若者」は世間の移り気な購買層のことを指していると思われます。60年代後半あれだけフラワームーブメントが沸き起こったのに、70年代はしらけ切った時代になりました。

(「Many men =男たちは」当時の活動家達のことと思われます)70年になると黒人は当時ブラックパワーと言って力を見せつけます。黒人のためだけにますます黒人らしく歌います。あれだけ融和を夢見ていたのに、白人は黒人の歌を白人のためだけに歌うということが正しいことのようにとらえられます。黒人なのに白人ぽいようなメロディーラインを多用するスライには、黒人の中(白人でも活動家たち)から批判が集中してしまいます。ちょうど60年代前半のシドニーポアチエのようにです。

Thank you falettinme be mice elf agin
I want to thank you falettinme be mice elf agin
Thank you falettinme be mice elf agin
Thank you falettinme be mice elf agin
I want to thank you falettinme be mice elf agin
実はこの曲シングル盤としての発売のみで、アルバムには収録されませんでした。ただし、サンキュー・フォー・トーキン・トゥ・ミー、アフリカというタイトルで、アルバム「暴動」の中にアレンジ違いとなって収められています。テンポを落とし、暗く、重く、陰鬱で気怠く、息苦しい影を残します。本当にやりたかったことはなんだったのか、まだ自分自身に戻れきててないという焦燥感や失望感に溢れています。
素直になれずにいる自分。そのモヤモヤが、 falettinme be mice elf aginというちょっとおちゃらけた歌詞に繋がっているものと思われます。

ちなみにこの「暴動」の中には、アルバムタイトルのタイトルだけで無音(デジタル版では4秒の無音)の暴動や、大ヒットしたこれも(大問題作の)Family Affairも収められています。
無音の「暴動」には暴動など望まないという主張が込められています。Family Affair では様々な問題の根本は家族の中の問題であると言ってしまいました。

 

このアルバムは前作STANDのヒットの後なかなな発売されませんでした。表現内容やプロモーターと揉めたようですし、SLY自身の無力感もあったようです。バンドとしての活動はほとんどなく、スライは当時の最新のリズムボックスを使って一人で録音してなんとか締め切りに間に合い発売に至りました。

その後のスライは薬物やアルコールで引きこもりになってしまいます。いろいろな人の支援で何度が表舞台に引っ張り出されはしますが、長続きはしませんでした。

そしてそのまま現在に至ります。

「立ち上がれ」、「誰もがスター」だ、「シンプルな歌を歌え」「より高みに」「試みればできる」と訴えたスライの足跡は消すことができません。確かでした。

 

 

 

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