名曲紹介 Van Morrison 「 Astral Weeks」

1、概要

今回はヴァンモリソンの「アストラルウィークス」です。年に数回はこのアルバムが聴きたくなる時があります。
この時期、車で窓を全開にして田舎道を走っている時などいい感じです。
ヴァンモリソンは、北アイルランド出身で、ゼムというR&Bバンドでデビュー、このソロ2枚目となるこのアルバムはなんとも不思議なサウンドで、唯一無二のアルバムです。流れ着いたニューヨークでその場のジャズミュージシャンを雇って即興で短時間で録音されました。
当時はそれほどの話題にもならなかったのですが、名盤としてその筋に評価され、何十年もの間、じわじわ売れてゴールドレコードも受賞しました

こちらのリンク先で視聴ください

 

 

アルバムタイトルともなっている「Astral Weeks」ですが、Astralは霊的な言葉で、幽体離脱のことも指します。
つまりAstral Weeksは霊魂としての数週間という意味に取れます。収められている8曲は、故郷の北アイルランドの思い出などがテーマですが、どれも死の匂いが漂います。(この辺が前回の友川カズキの「一人ぼっちは絵描きになる」に共通してる点かもしれません)

 

2、歌詞と解釈

この歌は難解ですが、死んだ私が天国に行く前の数週間の間に残して逝った彼女に会いに戻る歌と解釈できます。
ここでの「車」は霊魂がこの世の中を動き回るための道具の比喩だと思います

 

 

If I ventured in the slipstream
Between the viaducts of your dream
Where immobile steel rims crack
And the ditch in the back roads stop

もしも、スリップスストリーム(空気抵抗を避けてハンドルを切る技)を使って
君の夢の高架線の隙間にチャレンジしたら
車輪はひび割れ、ダッチしそれっきりになっちまう

Could you find me?
Would you kiss-a my eyes?
To lay me down
In silence easy
To be born again
To be born again

見つけてくれるかい
目にキスをくれるかい
私を横たえて、
静かに
生まれ変わるために
生まれ変わるために

 

From the far side of the ocean
If I put the wheels in motion
And I stand with my arms behind me
And I’m pushin’ on the door

Could you find me?
Would you kiss-a my eyes?
To lay me down
In silence easy
To be born again
To be born again

今度は、大海原の遠い向こうから
車を転がせてやってきて
丁寧に後ろ手に立ち
ドアを押し開けたら

(コーラス)

There you go
Standin’with the look of avarice
Talkin’to Huddie Ledbetter
Showin’ pictures on the wall
Whisperin’in the hall
And pointin’a finger at me

君が見える
君は物欲しげな顔をして立っている
ヒューディーレッドベターと話しながら
壁に写真が飾ってある
ホールでささやいている
そして、(その写真の)私に向かって指差している

 

 

There you go
Takin’good care of your boy
Seein’that he’s got clean clothes
Puttin’on his little red shoes
I see you know he’s got clean clothes
A-puttin’on his little red shoes
A-pointin’ a finger at me
And here I am
Standing in your sad arrest
Trying to do my very best
Lookin’straight at you
Comin’ through, darlin’

 

君が見える
坊主を気遣って
綺麗な服を着せているんだな
ちっちゃな赤い靴も履かせて
俺のことを指指している
「ほうら、とーちゃんだよ」
君の強欲に立ち尽くしてても
精一杯の覚悟を決めて
君を見つめる
「さあこっちだよ」

 

In another world
In another time
Got a home on high
Ain’t nothing but a stranger in this world
I’m nothing but a stranger in this world

I got a home on high
In another land
So far away
So far away
Way up in the heaven
Way up in the heaven
Way up in the heaven
Way up in the heaven
In another time
n another place
In another time
In another place
Way up in the heaven
Way up in the heaven
We are goin’up to heaven
We are goin’to heaven
In another time
In another place
In another time
In another place
In another face

 

1番の歌詞の中で出てくる、「the slipstream(スリップストリーム)」とは、車の高等運転テクニックです。カーブを切るときに空気が薄くなるところを利用して空気抵抗を抑えてスピードを落とさずに曲がり切る方法です。
「Between the viaducts (高架線の隙間)」は、彼女の中のこころの隙間のことでしょう。一触即発、大きな危険を孕んでいます。ということは彼女との関係は順風万般ではなかったのだと推測できます。

つまり荒手の方法で幽霊として君の前に急いて現れたら、びっくりされて、こわがれ、それっきりでオジャンになってしまうということを言っていると思います。

ついでの2番は、「far side of the ocean(大海原の彼方)」は、天国に近いとところのことでしょう。車はもちろん幽体離脱の走行機器です。「If I put the wheels in motion 」、今度はゆっくり車を転がします。そして丁寧に手を後ろにしてドアを開けます。

つまり、今度は とても穏やかな方法で霊として君の前に合わられたら
どうなるかと、思案しています。

 

3番は 実際に霊として彼女のそばに行って様子を見てみます。
壁の写真は葬式に際した私の写真だと解釈します。 「the look of avarice 」の直訳は貪欲さですが、お金ではなく男への欲望でしょう。彼女は私を指差していますが、それは写真の中の私ではないかと思います。

つまり自分の葬式の会場に霊として訪れた状況を描写していると思います。
そこでは、彼女はすでに、新しい男を物色しており、状況はあまり良いとは言えない様です。

4番は、子供の様子が歌われます。この子は多分息子でしょう。実の息子かどうかはわかりませんが、彼女が産んだ子であることは間違いありません。純粋無垢な幼い子には幽体となったお父さんが見えるのでしょう。
(でもそのことは暗に、「現実的な彼女には私のことが見えていない」という悲しさが忍ばれます)

これが確認された後は、自分がこの世では異邦人でもうお邪魔虫であるということも納得し、後ろ髪を惹かれながらも、やっぱり、遠い天獄へと行くことにします。
違った世界で生まれ変わるために、、、。

 

3、サウンド面

フワフワとした浮遊感、それが全てです。
右のギター、左のフルートもほとんど即興でしょう。全員が霊体のイメージを沸かせてモリソンのギターとマラカスのリズムに合わせて、演奏していると思われます。後から被せたと思われるストリングスも即興的なアレンジです。ほとんど2つの音しか出していダブルベースも音程を変えて浮遊感を醸し出します。最後の最後で弓を使います。

歌も最後はもう即興です。自分に言い聞かせる様に、天国への言葉を何度も繰り返します。そしてだんだん現世から遠ざかる様に音が小さくなっていきます(音響でのフェイドアウトではなく演奏でのフェイドアウトです)。

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です