1、概要
ドンマックリーンといえは、なんと言っても大作の「アメリカンパイ」でしょうけれど、今回紹介するのは、その次のヒット曲の「 VINCENT」です。(アメリカンパイは暗喩が多すぎて難解ですが、いつかは自分なりの解釈に挑戦したいと思っています)
こちらで聴くことができます
この頃のヒット曲には人の名前をタイトルにした曲が多くあります。ニールダイアモンドの「スウィートキャロライン」、ギルバートオサリバン「クレア」。マイケルジャクソンの「BEN」、ストーンズの「アンジー」、エルトンジョン「ダニエル」、スティービーワンダー「アイシャ」、アルクーパーの「ジョリ」などなど。(日本でも西城秀樹が「ローラ」を歌っていました)
ドンマックリーンの「 VINCENT」は、画家のフィンセント・ヴァン・ゴッホ(Vincent Willem van Gogh)のことです。彼がゴッホの伝記を読んでインスピレーションを沸かせて書いた曲で、歌い出しのStary,Starry Nightは、ゴッホの名作「ローヌ川の星聖夜」です。
同じような作品でこちらが「星月夜」
ゴッホの筆使いをそのままアニメーションにした映画、「ゴッホ最後の手紙(2017)」のエンドタイトルでもこの曲が使われました。
2、歌詞と解釈
1、
Starry, starry night.
Paint your palette blue and grey,
Look out on a summer’s day,
With eyes that know the darkness in my soul.
Shadows on the hills,
Sketch the trees and the daffodils,
Catch the breeze and the winter chills,
In colors on the snowy linen land.
星聖夜
パレットを灰色と青に染めて
夏の日に目を向けるんだ
私の心の闇を見抜く目で
丘の影、木々、水仙を描くんだ
吹雪や冬の冷たさを
その雪のようなキャンバスの色の中に
(コーラス)
Now I understand what you tried to say to me
How you suffered for your sanity,
How you tried to set them free.
They would not listen, they did not know how.
Perhaps they’ll listen now.
今ならわかる 君が言わんとしたことを
正直者がいかに馬鹿を見たかを
彼らをいかにさせるがままにしたかを
世間は知らなかったし聞きもしなかった
しかし今なら聞いてくれるはず
2、
Starry, starry night.
Flaming flowers that brightly blaze,
Swirling clouds in violet haze,
Reflect in Vincent’s eyes of china blue.
Colors changing hue, morning field of amber grain,
Weathered faces lined in pain,
Are soothed beneath the artist’s loving hand.
星聖夜
眩しく燃え上がる花が
菫色に渦巻く雲が
ヴィンセントの青い目に映る
色相を変えた朝の畑
苦しさが皺に刻まれた顔も
芸術家の優しい手によって癒される
(コーラス)
(ブリッジ)
For they could not love you,
But still your love was true.
And when no hope was left inside
On that starry, starry night,
You took your life, as lovers often do.
But I could have told you, Vincent,
This world was never meant for one
As beautiful as you.
世間からは愛されなかったが
君の愛は本物のままだった
しかし希望がなくなった時
その星聖夜の晩に
君は命を絶ったんだ、
あたかも恋人たちの心中のように
でも私なら話せたよ、ヴィンセント
この世は君ほどには美しくは無かったのさ
3、
Starry, starry night.
Portraits hung in empty halls,
Frameless head on nameless walls,
With eyes that watch the world and can’t forget.
Like the strangers that you’ve met,
The ragged men in the ragged clothes,
The silver thorn of bloody rose,
Lie crushed and broken on the virgin snow.
星聖夜
空っぽの部屋の肖像画
名もなく肩書きもない
しかしその目は世界を見定めている
出会ったことのある見知らぬ人の様に
ボロボロの服を着たボロボロの人たち
真っ赤な薔薇の銀の刺
壊れ果ててバージンスノーの上横たわる
(コーラス)
Now I think I know what you tried to say to me
How you suffered for your sanity,
How you tried to set them free.
They would not listen, they’re not listening still.
Perhaps they never will…
今ならわかる 君が言わんとしたことを
正直者がいかに馬鹿を見たかを
彼らをいかにさせるがままにしたかを
世間は知らなかったし聞きもしなかった
たぶんこれからも
ゴッホは言うまでもなく、オランダの画家で、生前は才能を認められず1枚も絵が売れなかったと言う恵まれない一生だったとされます。実際には実の弟で画商のテオによって経済的には支援されて、生活はなんとかなっていました。印象派の影響を受け、さらに日本の浮世絵に衝撃を受けて、南フランスにのアルルに移り住みます。アルルにいた数年間で、才能を爆発させ名作を数々描きます。しかし精神的には不安定で、友人だったゴーギャンとの仲もうまくいかず、「耳そぎ事件」などを起こします。その後は、施設で療養をしながらも作品を描きました。
そしてある晴れた日にピストルで自ら命を断ちます。(自殺説には諸説あります)
原田マハのベストセラーになった「たゆたえども沈まず」にも描かれています。
元に戻って楽曲に出てくる作品を順に探ってみましょう
1番の「丘の影」はこの絵でしょう
「木々」とは盛んに描かれた糸杉のことです
「水仙」はこちらですが、今は消失してしまっています。有名なアイリスのことかもしれません
2番の「燃え上がる花」は有名な「ひまわり」でしょう
「菫色に渦巻く雲」間違いなく「星月夜」です
「色相を変えた朝の畑」タネまく人です。マネの真似ですが、色や構図が大胆に変わっています。
苦しさが皺になった顔 他にも肖像画をたくさん描いています。もしかしたら自画像のことかもしれません。
3番
「からっぼの部屋」はアルルでゴーギャンの到着を待っていた黄色い家の部屋でしょう
名も無き肖像画 部屋をよく見ると、かかっている絵の1枚は郵便配達人のジョセフルーランの絵の様です
(他にもたくさんの肖像画を描きましたが、これはモデルは医師のガシェです)
「ボロボロの服のボロボロの人たち」、これは初期の作品「ジャガイモを食べる人たち」かと思われます。
雪の中のバラの刺とはこの絵でしょう。
ゴッホの絵を眺めていると、ゴッホが日本を見つけたと言うアルルを一度は訪れてみたくなります。「跳ね橋」や「夜のカフェテリア」に行ってみたくなります。
ところで、友川カズキの「一人ぼっちは絵描きになる」も同じように画家を取り上げたコンセプトの曲です。こちらは、ゴッホは出てきませんが、セザンヌやエゴンシーレ、フランシスベーコン、日本の画家では、長谷川利行、関根正二、中村彝(つね)、など主に大正時代の画家が出てきます。(長くなりましたので次回とします。)
3、サウンド面
オリジナルはギターのつまびきのシンプルな編曲です。
KEYなはG。 G Am C D7 G です。コーラスはAmD7G Em AmD7Em Am D7 G。ブリッジは Am7D7GE mときて Am7Cm G E7 Am7 C D7 G。となります。ブリッジAm7の後にCmがくるのが泣けます。