ケンフォレット「火の柱」を読む 

1、ケンフォレット「火の柱」

コロナでの自宅で過ごす時間を利用して、ケンフォレッットの新作「火の柱」を読破しました。文庫本で3冊(上、中、下)1600ページに渡る大作です。
ケンフォレットの代表作「大聖堂」のシリーズになります。ケンフォレットは初期は「針の目」、「レベッカへの鍵」などスパイ小説が多く、今回は久々の「スパイ物」で楽しませてもらいました。

時代は、このサイトでもよく取り上げているイングランドエリザベス1世の時代で、1588年から1606年。宗教の対立の時代に翻弄される、「大聖堂」のある架空の町キングスブリッジの2つの家族の物語です。舞台はキングスブリッジにと止まらず、パリ、ロンドン、からスペイン、ネーデルランドにもおよびます。登場人物も実在した人物だけでも60名を超えます。

この時代はプロテスタントとカソリックの宗教の対立の時代でした。そこに信仰の異なるキングスブリッジの2つの家族(べたな設定ですが、愛し合うネッドとマジェリーは、この対立に引き裂かれてしまうのです。)また、マジェリーの兄ロロと、ネッドの兄で航海士になるバーニーも重要な役割を果たします。パリにいる上昇志向の強い調子者のピエールと、同じくパリで活動するたくましいプロテスタント女性シルビーも絡んできます。

この時代、重大な事件が次々に起こります。この小説ではなんともその重要事件の現場に主要な登場人物がいたという想定になっております。主人公のネッドはエリザベス女王の重臣セシルとスパイの元締めウォルシンガムの部下として働きます。ピエールはフランスで急進的カソリックギーズ家に取りあげれ工作員として働きます。マジェリーの兄ロロは狂信的カソリックとして様々な事件に関わります。(「フォレストガンプ」みたいでちょっとやりすぎではないかととも思えてしましました)

ストーリーは読んでもらってスリリングさなどを楽しんでもらうとして、ここでは、登場人物が現場に居合わせたり、糸を引いたりした重要事件を時代順に紹介したいと思います。

2023年フランスW杯でフランスを訪問するなら、フランスやイングランドの歴史を知っておくとより楽しめると思います。

この小説は、日本で言うと、秀吉や信長、光秀や家康が活躍した頃と重なります。日本人がその頃の人物や人間関係を知っているのと同じように、欧州では誰もが知っている歴史がベースにあります。

 

2、歴史事件紹介

メアリーチューダー女王によるプロテスタント弾圧(英)

メアリー1世

カソリックのメアリー1世は即位すると、スペインフェリペ2世と結婚、プロテスタントを弾圧し異端として次々に火刑する「ブラディメアリー」と恐れられた。

メアリーステュアートとフランソワ皇太子の結婚式(仏)(1558)

フランソワ2世とメアリー女王

スコットランドの幼い女王メアリーはフランスの宮廷に預けられていた。いいなづけのフランソワとでパリノートルダムで結婚式を挙げる。これでフランスではメアリーの後ろ盾であるカソリックのギーズ家が力を伸ばすことになる。

 

メアリーチューダー女王の病死とエリザベス1世の即位(英)(1558)

現在のハトフィールドハウス

即位後のエリザベス1世

メアリー1世に子供ができぬまま死去が迫ると、セシル達はエリザベスの即位を画策する。死亡の知らせは早馬でハットフィールドに囚われの身になっていたエリザベスの元に伝えられる。

アンリ2世、馬上試合での事故死(仏)(1559)

アンリ2世の馬上試合

カトーカンブリッジ条約の結果、2組の政治的な結婚式が決まる。ところが、アンリ2世はその結婚式の余興の馬上試合で、対戦相手モンゴメリーの槍が刺さって死亡していまう。

メアリー女王、スコットランドへ帰還(仏)(1561)

フランソワ2世は王位を継ぐも、病弱で1560年12月に16歳で死亡。若くして未亡人となったメアリーはスコットランドへ帰還する。

海峡を渡るメアリー女王

(この後のスコットランドでのメアリーのはちゃめちゃぶりは物語では書かれていません)

ヴァッシーの虐殺(仏)(1562)

ヴァッシーの虐殺

ギーズ家のアンリは、ヴァッシーの街を通りかかった際に、掟を破って祈祷集会を行なっていったユグノーを無差別に虐殺する。

ナバラ王アンリと王妹マルゴの結婚(仏)(1562)

ナバラ王アンリと王妹マルゴ

皇后カトリーヌの差し金で、ユグノーの若きリーダーナバラ王アンリと、カソリックの王妹マルゴが政略結婚を行う。この結婚式に全国からユグノーの有力者がパリに集結する。(当初は融和策の考えもあったがこれが全く逆展開になってしまう)

コリニー総督暗殺未遂事件(仏)(1562)

コリニー提督

カトリーヌ皇后は、ユグノーで力をつけてきたコリニー提督暗殺をしむけるが、暗殺者のミスにより銃弾がそれ、失敗する

サンバルテルミーの虐殺(仏)(1562)

サンバルテルミーの虐殺

コリニー提督暗殺のへ大規模な復讐が画策されるとして、王の許可がおりパリの門が閉ざされ、カソリックによる先制攻撃がなされる。コリニー提督も未明に暗殺が成就される。これがきっかけで前代未聞のユグノーの大虐殺となる。パリだけで三千人が死亡。さらにフランス全土でのユグノー弾圧が広まる。

 

メアリー女王 幽閉先のリーベン湖から脱走(英)(1568)

スコットランドではちゃめちゃやったメアリーはリーヴェン湖に監禁されますが、この陸の孤島からメアリーは脱獄してイングランドに亡命します。

 

スロックモートン事件(英)(1583)バビントン事件(英)(1586)

バビントン事件の首謀者達

急進的カソリックは、幽閉されているメアリースチュワートを担ぎ出して、エリザベスの廃位を画策するが、ウォルシンガムらの捜索で未遂に終わる。

メアリースチュワート斬首(英)(1587)

メアリースチュワート処刑

メアリーは死刑判決を受ける。執行命令へのサイン渋ったエリザベスもついにサインをして、フォザリンゲイ城にて死刑執行がなされる。メアリーは真っ赤なドレス姿だった。

アンリ3世、ギーズ公アンリを暗殺(仏)(1587)


アンリ2世は、三部会の招集と称してブロア城に呼び寄せ、次の日の朝ブロア城の会見室に無防備であわられたギーズ公アンリを、武装させ潜ませていた側近に刺殺させる。

 

アルマダ海戦(英、スペイン)(1588)

アルマダ海戦

スペインフェリペ2世の怒りを買い、戦争へ突入する。無敵艦隊を言われたスペイン海軍であるが、イングランドのフランシスドレイクの作戦に敗北して逃走する。

 

エリザベス1世死去(英)(1603)

バージンクイーンと言われたエリザベスは全ての結婚を断り、子供のないままに死去する。

ジェームス1世即位 (英)(1603)

エリザベス1世の死去により、メアリースチュワートの生き別れの一人息子でスコットランド王となっているジェームスが、イングランド王も兼ねることになる。ここに同君連合のスチュワート朝が誕生する

 

ガイフォークス事件(英)(1605)

首謀者たち

ジェームスがイングランド王になれば、カソリックにも寛容になるのではないかとの期待を裏切られた急進的カソリックが、ウエストミンスターの地下に爆薬を仕掛けて、ジェームス王を国会もろとも爆破しようとしたテロ未遂事件。

今でも毎年11月5日のロンドンでは。ガイフォークスデイと言って、花火を打ち上げるお祭りになっている。またガイフォークスのお面はハロウィンの仮装の定番になっている。

こんな大事件ばかりでありますが、の登場人物達はなんらかの形で事件に関わっているという想定です。

勉強にはなりますが、実在していない人物も多く描かれているので、読み終わった後に確認してみるのが良いかもしれません。

 

 

 

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