ゲーム前の展開の予測
ゲーム前の予測では、スコットランドがキッキングレームを仕掛けきて、ジャパンも僅差で追い上げて行くといった展開であろうとしていたが、全くそうはならなかった。逆にジャパンは予定通りにポゼッションラグビーを展開して迷いなくそれをその通りに遂行した。ベンオキーフレフリーが早い笛を吹く傾向であり、お互いの反則が多くなり、PGを取り合う展開になると予想もしていた。でも実際にはその通りにはならなかった。結果28−21トライの応酬(4本−3本)でPGでの得点はお互い1本もなかった。
スコットランドは確かにそのような(キッキングゲームとPGでの刻み、ディフェンス重視)ゲームプランであったはずである。ジャパンを4トライ以内に抑えてBPを与えずに、勝ちさえすればポイントは14Pー14Pで並び、二位通過を狙う狙いであったはず。であるのでその証拠に、ダウンゼントはレイドローにキャプテンを任せ、レイドローもコイントスで勝って風上を選んだ。それは、スコットランドが得意とするティア1への戦い方であったはずである。それこそスコットランドがジャパンに脅威を覚え、リスペクトしティア1として認めた証でもある。(30年前に秩父宮でJAPANがスコットランドに勝ったゲームはスコットランドは未だにテストマッチとは認めていない)
しかし結果はスコットランドの思うようなゲームプラン通りにはならなかった。なぜそうなったかを、まずゲームに入る前の状況と、ゲームに入ってから序盤の出来事に分けて、考えてみたい。
スコットランドのゲームプラン遂行を妨げた布石
まずはゲームが始まる前の出来事から振り返りたい。
ゲーム前の状況の変化には少なくとも三つの要因があった。それによってスコットランドは自らが振り回されて、ゲーム前の戦略の徹底には、そもそも始まる前から少々の亀裂が生じていた。
一つ目は台風の危機がある前の開催をめぐるHC、スタッフによる舌戦。二つ目が、アイルランドーサモア、スコットランドーロシアの直前のゲームが双方とも一方的なトライラッシュになった影響。三つ目が、選手とコーチが人生で初めて日本の台風の威力を滞在先のホテルで体験して、不安な一夜を過ごしただろう事。
一つ目は台風で開催が危ぶまれる中でのHC、スタッフの舌戦。まずは、中三日でのJPAN戦となる日程を今更批判。さらに、JAPANのサモア戦の最後のスクラムでのサモアのノットストレートの判定を批判、日本のBPを否定した。この時点で既に気持ちで負けていることは明らかであった。さらにスコットランド協会は開催が中止になれば法的措置も辞さないなのどの発言も飛び出し、ワールドラグビーもその発言に対し、強い口調でたしなめるなどといった事も起こる。こうなるとスコットランドチームの中選手の気持ちにも何らのものが残る、それは「黒いシミ」のような物であり、気にしていないつもりでも何か引っかかりそれが気持ちの狂いを生じさせてしまうような物である。自らそのような原因をゲーム前にスコットランドは作ってしまった。
二つ目が、スコットランドは直前のゲームのロシア戦がトライラッシュの大勝となった事。(スコア61−0)。しかも一線級を温存しての結果であった。これはこれで良いのだが、この結果によって、JAPANからも多くのトライが取れるのではないかという思いがちょっとだけ選手の頭の片隅に残ってしまった。さらにアイルランドもサモアに対し完璧に叩きのめした。(47−5)。ジャパンは両チームには苦戦しており、スコットランドもJAPANからもひょっとして多くトライが取れるのではという考えがさらに大きく頭をよぎっても不思議でない。守りきって勝つといった冷静な当初のゲームプランに、迷いも生じていたはずである。
次に選手コーチが初めての台風という不安な一夜を過ごした事である。ただでさえ、中止になれば引き分け扱いとなりスコットランドの敗退は決定してしまう。しかし、実際に台風に直面してみると、「中止などもっての他」と思ったスタッフは、その発言が間違いだった事を身を持って思い知ったと思われる。人生初めての台風の猛威の経験は非常にインパクトがあったはずである。事実、選手のうちの何人かは、その脅威を自らSNSに上げている。ゲームに集中できなかった証拠でもある。
そして一夜明け、台風一過となってもその傷跡は凄まじいく、これではゲームはできなくても仕方ないという思いも出たと思う。しかし、朝10時の時点で組織委員会はゲームの開催を発表する。
こうなるとスコットランドのチームは気合が入る。ゲームが行える喜びが先行する。選手の中のラグビーの持つ人間の本能が頭をもたげる。闘争心が沸き起こる。冷静な勝ち点計算など戦略的なゲームプランなどどこかに吹っ飛んでもおかしくない。
以上がゲーム前に起こっただろうスコットランドのゲームプランの乱れであった。一方のジャパンには迷いは全くなかった。反則をせずに、ポセッションラグビーを続ければスコットランドのディフェンスに乱れが生じ、反則ならばPGを狙い、1対1の局面ができればオフロード。裏が開けばゴロパンなど様々な手を準備していた。そしてそれを確実に遂行した。もちろん台風には慣れっこである。
ゲーム初盤での出来事
そしてさらにゲーム展開は初盤で、方向が決まってしまった。一つは開始早々、スコットランドのエースの、SO、フィンラッセルがJAPANのディフェンスを切り裂き、簡単にゴールを取ったこと。これで才能豊かなフィンラッセルもいけるはずという勘違いをしてしまう、その後の自らのプレーやレフリングにフラストレーションが溜まり、キックのタイミングなど、プレーの判断をミスしてしまうことにつながる。
二つ目は7−0となった時点で田村のイージーなPGが外れたことである。もしここでPGが決まっていれば、7−3。スコットランドもその後レイドローがことごとくPGを狙いにいくことになり、そうなれば、当初の得意の展開に持ち込めたはずであった。
それに追い打ちをかけたのが、25分の稲垣のトライであった。JAPANは当初の狙い通りキックを使わず、PODでボールを早く回し、スコットランドのダブルタックルがシングルになる機会、(すなわちオフロードパスが使える場面)を待っていた。そして、そのディフェンスのギャップが中央ができた瞬間に、3連続オフロードという極めて美しいトライが生まれた。稲垣にとっては代表初トライ。このトライはワールドラグビー が選ぶプール戦ベスト5トライの2位にランクインしている(参照)。
これで14−7となり、スコットランドはもはやトライを取りに行くしか選択肢がなくなってしまう。これで完全にスコットランドの当初のゲームプランは崩れ去ってしまった。
さらに前がかりとなるディフェンスの裏を狙ったラファエレのゴロパンが決まり福岡がトライ。21−7となって前半終了。スコットランドはキックしてボールを手放すことが怖くなったことは間違いない。
しかし、それが皮肉にも逆に後半スコットランドの戦略の変更を徹底させることになる、メンバーの早期変更を促し、18番のファーガソンはじめ、フレッシュなFWが前に出はじめ、スコットランドの後半猛攻にもつながることになる。レイドローも早々に交代する。
残り20分、その攻撃もJAPANはなんとかしのぎ切って28−21での勝利となった。
ちょっとした振り子の振れ具合と、その時間がどの時間帯なのかなど、様々な要因が重なり日本の快心の勝利となった。しかし偶然でもなんでもない。様々な状況を想定して、しっかり準備しているJAPANは、スタッフコーチ含め、世界一のチームの候補として名乗りをあげるにふさわしいチームであることは、証明された。