名曲再発見 「一人ぼっちは絵描きになる」友川カズキ

1、概要

 

これまで、70年台初期の洋楽、それも胸キュンもののしみじみとしたものが続きましたが、今回はガラッと変わります。

 

前回のドンマックリーンの「ヴィンセント 」でゴッホの歌でした。今回の友川カズキの「一人ぼっちは絵描きになる」も同じように画家を扱ったコンセプトの曲です。
こちらは、ゴッホは出てきませんが、セザンヌやエゴンシーレ、フランシスベーコン、日本の画家では、長谷川利行、関根正二、中村彝、など主に大正時代の洋画家が登場します。

作者で歌っている友川カズキは、「生きているって言ってみろ」や、ちあきなおみが紅白で歌って伝説になった「夜へ急ぐ人」が代表作です。彼自身も川崎に一人住まいして絵も描いています。(競輪場かよいの方が多いようですけれども)

「一人ぼっちは絵描きになる」の入ったアルバム(2010年)はすごい高値になっています。

ベストアルバムにも収録されているのでそちらの方がお買い得です。

こちらの公式サイトにライブ音源があります

友川カズキは、その存在感と言葉の選び方、その伝え方など、とにかくものすごいです。他の曲もぜひ聞いてみてください。

 

2、歌詞と解釈

出てきるが画家の作品や、その生き方を知った上で聞き直すと、曲をまた深く理解することができます。
そこで、今回、画家の自画像と関連すると思われる代表作や問題作を選んで並べてみました。
(ライブなどでは歌詞が飛ばされたり、画家の並びが異なることがありますが、セザンヌとシーレはいつも最初に歌われています。)

 

 

光の粉をまぶしたように
フランスの丘という丘が
淡いオレンジに輝いているのは
ポールセザンヌのせいである

 

破戒なのか革命なのか
関節のゴツゴツした音は
たまげた構図の中で休む
エゴンシーレは誰なのか

一人ぼっちは絵描きになる
一人ぼっちは絵描きになる

むろん正気などではありはせぬ
赤いガランス内なるデカダン
村山槐多 思いし夜は
何ためらうことなく殘酷になる

 

覚悟などとるに足らぬのだ
いつか君に励まされた
長谷川利行 さみしかないか
今日のメシはさみしかないか

 

一人ぼっちは絵描きになる
一人ぼっちは絵描きになる

 

確かなものなぞ何ひとつない
人とて詮ない肉片
フランシスベーコンはるかなりけり
いつかおぼろげなハグをした

 

軽きに空をちぎって見せる
パウルクレーの欲深き指は
甘美な鳥の爪跡か
名も無き民の暗号か

 

一人ぼっちは絵描きになる
一人ぼっちは絵描きになる

見えないのか見ようとしないのか
しけった火薬の導火線
オーロラを素手ではらう
熊谷守一はそびえきん

  

 

砂浜に輪になって踊る
園児等は月の宿した子供だ
黄金の鳥に赤いリボン結んで
中村彝がやってきた

 

 

一人ぼっちは絵描きになる
一人ぼっちは絵描きになる

台風が好きだった
黄色いパレット カタカタ鳴らせば
越年の雪の小窓で揺れる
関根正二あなたでしたか

 

一人ぼっちは絵描きになる
一人ぼっちは絵描きになる

 

この歌は一度聞いただけで言葉の迫力とイメージの深さに圧倒させられ鬼気迫るものを感じます。
同様に、これらの画家の絵も一度見ただけで、同様に鬼気迫るものを感じさせられます

ゴッホもそうですが、若くして亡くなった画家が多く取り上げられています。

大正時代に今のコロナよりも大規模なパンデミックになった「スペイン風邪」でエゴンシーレは20代で亡くなりました。最初に妻がシーレの子を宿したまま「スペイン風邪」で亡くなり、その後、シーレ自身も濃厚接触のために同じく「スペイン風邪」を発症して亡くなりました。

村山槐多もこの「スペイン風邪」でなくなっています。22歳です。亡くなる直前は最後まで失恋した相手(男性です。)へのうわ言を言っていたとのことです。

長谷川利行は、浅草界隈で絵を描いては酒代にするなど荒れた生活をしていて、道に倒れていたところを、養老院に担ぎ込まれてそこで亡くなりました。49歳でした。癌を患っていました。

中村彝は幼いうちに家族が次々に亡くなり、14歳で唯一の肉親の姉も亡くなり、まさに天涯孤独になります。上京して絵を描いていたところを新宿の中村屋で拾われ居候し、その知人の娘に恋心を抱きますが、失恋してそこも追い出されてしまします。その失意のまま落合近辺で一人で過ごし、37歳で結核で死亡しました。

関根正二も上京してすぐ結核で20歳で死亡しています。キリスト教へ信仰があったようですが、入信はしていませんでした。

(そう言えば、太宰治の「人間失格」の主人公も「絵描き」でした)

 

熊谷守一のフレーズの部分は最近はステージでは歌われないようですが、彼は97歳の長寿を全うしました。熊谷守一は裕福な家庭に生まれながらも家業で忙しい両親のもとから3歳で父の妾の家に預けられます。11歳の時に濃尾地震でクラスメートの多くを亡くしています。そして、12歳から絵を描き始めました。曲の中に挿入したのはその若い頃の作品で、タイトルは「轢死」良く見ないとわかりませんが、暗闇の中に女性の死体が横たわっっています。晩年は、仙人みたいに悟りを開いたような風貌になり、その作風もシンプルでユーモラスなものにガラッと変わっています。

前回のゴッホも含めて、確かに一人ぼっちの画家が多いです。

2、サウンド面

KEYがB♭で、アコースティックギターが、カボ3でGでガチャガチャやります。
これにチェロやピアノが自由に絡んで、そこに浮遊感が漂います。
この辺はヴァンモリソンの「Astral Weeks」に近いものを感じます。
ただヴァンモリソンのギターは薄いピックでアタックの音がシャカシャカするのとは違ってストロークが力強いです。

と言うわけで次はバンモリソン「Astral Weeks」の紹介をします。

 

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